海に愛を注ぐともらえる感動があります 「すばらしいとき」 【キャビンの棚】
ペノブスコット湾の水面に岩勝ちのみぎわをみせる小島のつらなりの上で、みてごらん、世界のときがゆきすぎるのが みえるから。一分一分、一時間一時間、一日一日。季節から季節へと
「家にいながらして、すばらしい海を感じることのできる本」として編集部のお勧めのひとつに、米国の絵本作家、ロバート・マックロスキーの「すばらしいとき」があります。児童向けの絵本で、日本での初版は1978年ですから、読者の中にも親から読んでもらった、また、我が子に読み聞かせた、という方は多いかもしれません。その方たちにはこの本の素晴らしさにについての説明は不要だと思われます。
アメリカのメイン州にある小島の別荘で二人の娘を持つ家族が、春から夏の休暇を過ごす物語です。美しい雨と霧、心地よい風の中で帆走するヨット、月光に照らされる夜の海、突然襲い来る嵐……。悠々たる自然の美しさ、そこに身を置く時の素晴らしさを詩情豊かにうたいあげた傑作です。
水彩で描かれた絵は暖かく、眺めているとその世界に引き込まれていきます。「読んであげるなら5歳から、自分で読むなら小学校中級向き」の絵本なのですが、渡辺茂雄氏の日本語訳は世代を超越し、感動を与えてくれます。
何よりもマックロスキーの観察眼と感性に感嘆します。同じ時、同じ場所に身を置いたとして、その素晴らしさを同じように感じることができるかどうか、少々怪しいのが実際のところですが、この絵本によって得ることができるのは、「海や自然に対してどのように愛情を注げば、感動を受け取ることができるのか」であるような気がします。
マックロスキーはアメリカでもっとも敬愛されている絵本作家のひとりです。1941年に「かもさんお通り」でコルデコット賞を受賞。第二次大戦で兵役についたのち、夏場はメイン州の小島に住んで、自分の家族の素朴な生活を題材にして絵本を書きました。『すばらしいとき』は1957年の製作で、これもコルデコット賞を受賞しています。
親子で、パートナーと、もちろんひとりでも、海の好きな方にぜひ手にとっていただきたい絵本です。
「すばらしいとき」
文と絵/ロバート・マックロスキー
訳/わたなべしげお
発行/福音館書店
定価:¥1,650 (税込)
※この記事は過去の「Salty Life」の記事に加筆・修正して掲載しています。