きょうも海で奮闘する漁師を思いつつ、マグロのたたき 【レシピー船厨】
「クロマグロ(本マグロ)」といえば青森県の大間が有名で、漁の勇壮なイメージと、どこか一攫千金的なムードが番組的には受けるのでしょうか、よくテレビに取り上げられます。同じ津軽海峡を漁場とする船団は北海道からもやってきます。
もちろん日本のクロマグロ漁は津軽海峡だけで行われているわけではありません。好漁場は多く、長崎県壱岐の勝本も大間に匹敵するブランド品として名高いのです。
北海道の恵山を母港にマグロの延縄漁を行っていた漁師さんに話を聞いたことがあります。現在のような漁獲規制は無かった頃ですが、それでも許可制で、延縄漁ができる船の数は限られていました。
当時の操業期間は半年間。毎日捕れる魚ではないのですが、採算をとり、儲けを出すには「半年で20本、最低でも月に1本は揚げたい」という漁です。「ダメ元」で許可申請をしたところ思いがけず許可が取れ、とにかく見様見まねで初めてマグロ漁に出たその日、その漁師さんさんは2本のマグロを揚げました。大興奮だったそうです。
漁労機器などの装備も全て終えておらず、糸を巻き上げるローラーもなかったそうで、手で天蚕糸を曳き、大きなマグロを揚げなくてはなりませんでした。大物になると250kgを越し、ときには釣り針のステンレス製のアイさえも引きちぎるマグロの強烈なパワーを思い知らされます。1本のマグロを船上に引き揚げるまでに1時間もかかってしまいました。腕はパンパンに張り、くたくたでしたが、「デッキに堂々と横たわるマグロの姿を見て、何ともいえぬ充実感がこみ上げてきた」とマグロ初体験を振り返ってくれました。
もちろんその後は、「見よう見まね」「軽い気持ちで」というわけにはいきません。マグロの一本釣り漁師たちは、潮を読み、漁具の研究に時間を費やします。さらに商品価値を高めるため釣り上げた後の処理にも研究は及びます。
確かにそう簡単には釣れないのかもしれませんが、運を天に任せるようなことをするわけではありません。博打や遊びではないのです。漁は仕事です。生きることなのです。
これは魚に限ったことではありません。野菜や果物にしろ、普段我々が口に運ぶ食材には、常に生産者の思いがこめられています。ドラマもあります。
そんなことに思いを馳せながら、今日も有り難く、海の恵みをいただきます。