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沖縄で集中トレーニング- JSAF470級強化合宿 【We are Sailing!】

 2月から3月にかけて、プロ野球ではキャンプの話題で持ちきりです。沖縄や宮崎など温暖な場所で、各チームがペナントレースに向けた調整を行っている頃、実はヤマハセーリングチームも沖縄で強化合宿を行っています。

 セーリング競技は明確なシーズンオフという期間が定められているわけではありませんが、前年の世界選手権や全日本選手権などの主要レガッタが行われた時点で、その年のシーズンが終わって次のシーズンに向けての準備期間に入るというイメージです。日本の場合は概ね11月までに主要レガッタが開催されるので、12月から2月にかけてが試合の行われないシーズンオフとなります(ただし、4年ごとに行われる世界大会が南半球の都市で開催される場合は、その4年間は南半球が夏となる12~2月がメインのシーズンとなります)。

日本チーム全体のレベルアップをはかる

 JSAF(日本セーリング連盟)では、10年ほど前からこのシーズンオフの期間に沖縄で強化合宿を行ってきました。沖縄は年間を通じた平均風速が強く気温も温暖であるため、冬場のセーリングには最適のロケーションといえます。さらに、レベルの高いチームが集まってレース形式のトレーニングを行うことで、日本チーム全体のレベルアップをはかることもこの合宿の狙いのひとつです。

沖縄県の与那原マリーナをベースに行われたJSAF強化合宿

 東京大会までは座間味島(那覇の西方約40km沖)で合宿が行われていましたが、現在は沖縄本島東岸の与那原マリーナで開催されています。
 「風は座間味島の方が強いんですが、2024年の開催地であるフランスのマルセイユは、波も風もそれほど強くないことが予想される海面なので、その状況に比較的近い中城湾を合宿場所に選定しました」(JSAFオリンピック強化委員会・土居一斗コーチ)。
 合宿は昨年の12月から9日間を1クールとして2月までの間に全6回が予定されています。今回は2月2日から10日に行われた第5回合宿の様子を取材しました。この合宿に参加しているのは、昨年の470級世界選手権に出場した4チームに、次世代を担う大学生2チーム、さらに韓国から参加した2チームを加えた全8チーム。

 合宿中のタイムテーブルは午前と午後に海上練習、その後に近くのグラウンドで体力トレーニングを行い、その後はそれぞれのチームがトレーニングやミーティングを独自に行います。JSAFが用意した場を使って、それぞれのチームが自分たちの目的に応じて利用する形式です。

コンビネーションの完成を急げ

 「僕らは(トップ4チームの中で)最もチーム結成が遅かったので、まずはコンビネーションの精度を上げていくことが最優先です」という磯崎の言葉どおり、ヤマハセーリングチームの磯崎哲也と関友里恵のペアは、他の3チームが午後から海上練習を行うのに対し、彼らだけは若手チームとともに午前の海上練習にも参加していました。

海上でもコーチとコミュニケーションをとりながらトレーニングを繰り返す

 「特にクルーの関は競技から離れていた期間が長かったので、練習量でパフォーマンスを上げていく必要があります」というのは小泉颯作コーチ。
 「昨年の世界選手権では、関とのコンビネーションの点で磯崎が最高のパフォーマンスを発揮できずにいましたが、その時に比べると格段の進歩が見られます。まだまだベストパフォーマンスというわけにはいきませんが」
 午前中の海上練習では、短く設定したコースをグルグルと周回するメニューを行っていましたが、ヘルムスマンの磯崎は風域に合わせてコースの長さを調整するよう小泉コーチに細かくリクエストを出していました。関のクルーワークを徹底的に追い込むのが目的です。
 海上練習後の陸上トレーニングにも精力的に取り組み、他チームから遅れをとっている部分を大急ぎで取り戻している印象です。

夕方のフィジカルトレーニング。磯崎と関はひと休み。懸垂しているのはJSAFの土居コーチ

テーマを絞り重点的に取り組む

 一方、髙山大智/盛田冬華は、午後からの海上練習には少し早めに出航して、鈴木國央コーチが設定したブイを使って独自の練習に取り組んでいました。
 「ブイをスタートラインに見立てて、5秒前にセールを引き込んで5秒後ジャストにブイを最高速度で通過するという練習です」と教えてくれたのは鈴木國央コーチ。
 「昨年のレガッタではスタートで第一戦に出られないことでその後のレース展開が苦しくなるケースが多かったので、スタートの精度を上げることをこの合宿での目標のひとつに据えています」
 他チームが海上に出てくるまで、髙山/盛田は黙々とその練習に取り組みました。

スタートにフォーカスしてトレーニングを行う髙山大智と盛田冬華

 他チームが揃ってからは全艇でレース形式のコース練習が始まります。スタートにフォーカスしている髙山チームは、スタートを徹底的に攻めることでリコール(フライイング)してしまうこともありますが、リコール復帰からのレースの組み立ても彼らの課題のひとつとなっているようです。

「仮にスタートを失敗しても、その後の位置取りで挽回のチャンスが広がります。どこが勝負どころかを見極めて、そこで全力を振り絞ってフネを前に出す。ここは盛田の腕の見せ所なんですが、勝負どころがどこなのかを正確に見極められるようになることが課題ですね」(鈴木コーチ)

 1チームごとにその取り組みを見ていると、着実に成長の跡がうかがえて前途洋々のように思えるのですが、ライバルもまた自分たちの弱点を克服するための取り組みをしているわけで、レース形式の練習となると一進一退となってしまいます。ここが競技スポーツの厳しいところですが、選手たちはそれぞれ最後に自分たちが笑うために、自らの道を信じて努力を積み重ねているところです。

鈴木國央コーチ(左)と小泉颯作コーチ

 そんな厳しい合宿シーンの中で見つけたほっこりネタを一つご紹介。
 髙山/盛田をサポートする鈴木コーチのボートに同乗したとき、鈴木コーチがジーンズを履いていることに気付きました。ジーンズは水に濡れると動きにくくなり、さらに乾きにくいことから、海に出るときには最も適さないウェアというのがセーラーの常識なのですが……。

 「育ててるんですよ」と照れ笑いしながら鈴木コーチが教えてくれました。
 「潮風と強い紫外線で、いい感じのダメージに仕上がるんですよ(笑)」
 バイカーでもある鈴木コーチは、ライディング用のジーンズをこの合宿中に育てているとのことでした。そういえば新品のジーンズを漁師に履いてもらって商品化するプロジェクトが話題になったことがありましたね。

 さて、選手とジーンズ、いい感じに仕上がるのはどっちが先でしょうか。


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