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シジミ生産地・日本一のある漁師のやり方 【ニッポンの魚獲り】

 本欄ではこれまでに青森の十三湖、小川原湖のシジミ漁をご紹介してきましたが、忘れてはならないのが、日本一のヤマトシジミの生産量を誇る島根県の宍道湖です。
 この宍道湖で30年以上にわたってシジミ漁を続けているのが吉岡武志さん。

季節と状況によってやり方が変わる

 宍道湖での漁法は鋤簾じょれんというステンレス製のカゴ付きのすきに7~8mのガラス樹脂(もしくはカーボン樹脂)製のポールを取り付けて湖底のシジミを掻き取るものですが、ウェットスーツを着用して直接湖に入って鋤簾を操作する『入り掻き』、全長6~7mの和船の上から鋤簾を操作する『手掻き』、8~9mのディーゼル船に大型の鋤簾を結びつけて船の推進力を利用して鋤簾を引く『機械掻き』という3種類の漁法があります。

水流式と呼ばれる鋤簾

 吉岡さんはこの3つの漁法を季節や状況に合わせて使い分けています。

「機械掻きは貝の表面が傷つくというイメージがあって、浜値が安いんですよね。機械掻きの鋤簾は爪の先を曲げる工夫がしてあって傷つかないのですけど、やっぱりイメージがあるんでしょうね」

手掻き漁で使うのは、ヤマハ和船W-25DHとヤマハ船外機F40Fの組み合わせ

 昔ながらの入り掻き漁は、体力的にも大変なように思えるのですが、「風が弱いときは、むしろラクだし効率もいいですよ。反対に適度に風があるときは手掻きがいいんです。風の力で船が流されていくのに合わせて鋤簾を操作できますから。船の動力を使う機械掻きは一見ラクそうに見えるんですが、ディーゼルのパワーに対抗して鋤簾を動かすのにも体力がいるんですよ」と、極めて論理的に漁法を説明してくれます。

「1日の採捕量が約90kgと決まっていますから、その90kgの品質をどれだけ高められるかが重要ですよね」

夫婦で取り組むシジミ漁

 大きな台風が宍道湖周辺に停滞したことで大雨が降り、その直後から宍道湖でシジミの大量斃死が発生したことがありました。

「原因はよくわからなかったんですが、鋤簾の中に殻を閉じたまま死んでいるシジミが混じってくるんですよ。採捕量はカゴ2つと決まっていて、死んだものが混じっていると効率が悪い。で、その頃から妻(美子さん)を同乗させて、ボクが鋤簾で採っている間にシジミの選別をしてもらうようにしたら、当たり前なんですけどスゴク効率がよくなったんです」

吉岡武志さんと奥様の美子さん。
青いビニール紐で巻かれているのがLサイズ、赤いビニール紐で巻かれているのがMサイズのシジミ

 その頃、2人で漁に出るケースはほとんどなかったようですが、吉岡さんのシジミが高値で取引されるのをみて、周囲でも夫婦や兄弟で漁にでる船が増えてきたといいます。

 シジミ漁が認められているのは朝方の4時間(機械掻きは3時間)、漁から戻った吉岡さん夫婦は、自宅の車庫に置いてある選別器でサイズ別により分け、さらにそこで細かく不良品を取り除く作業を行います。「この作業のために車庫の床をツルツルにしたんですよ。シジミを床で転がしたときの音で死んだシジミを見分けるんです」。その様子を見ていると『そこまで几帳面にやる必要があるのか』と感じられるほど、吉岡さんたちの仕事ぶりは丁寧です。この生真面目とも思える作業を行うことで、吉岡さんが出荷するシジミには不良品がほとんど混じらないという信頼が得られ、高い値で取引してくれるようになったといいます。

十数粒ずつ手にとって床にこすりつけるようにして死んだシジミを見分ける

「朝方の4時間だけ働いて、いい商売だなと思われるみたいですが、シジミの状態が悪いときはこの作業だけで夕方の4時くらいまで掛かることがありますから。まあ、世の中にラクな仕事なんてないんでしょうね」

 漁から戻ると船外機やコンソールにキチンとカバーを掛け、船具置場となっている離れも驚くほど整然と整頓してある吉岡さん。この生真面目さがシジミ漁師としての適性に貢献しているようです。

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