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ふつうはビビる風のなかでも楽しめる精神力とスキルは魅力! 【We are Sailing!】

磯崎/関が世界選手権で銅メダル!

 まずご報告です。4年に一度おこなわれる国際スポーツイベントのセーリング競技10種目の合同世界選手権「アリアンツ・2023 セーリング・ワールド・チャンピオンシップ」が8月11日から20日まで、オランダのハーグで開催され、470級に出場したヤマハセーリングチームの磯崎哲也と関友里恵のコンビが3位で銅メダルを獲得、見事、表彰台に立ちました!

 磯崎/関は6位でメダルレース(上位10チームによる最終日に行われるレースでポイントが2倍になるため順位の変動もある)に進出、最後まで冷静に風を見ながら粘りを見せ逆転で3位にまで順位を上げたのです。

世界選手権で銅メダルを獲得した磯崎哲也と関友里恵のコンビ(Photo by Junichi Hirai)

 磯崎選手は「最後まであきらめず、フィニッシュまで戦えたことが結果につながりました。このレースを振り返ると、耐えて耐えての苦しい戦いでした。ただ、チームワークはあがっているし、ムードも悪くない。もう少しボートスピードが欲しい場面がある。次の世界選手権までに改善して、またメダル争いをしたい」と、この大会を振り返りました。

メダルレースで逆転(Photo by Junichi Hirai)

 一方の髙山大智と盛田冬華のコンビは、光る場面を随所に見せながらも最終的には24位と結果を出し切れませんでした。

「前半は良かったけれど、後半に崩したのが悔やまれます。スタートの成功率はあがっているのですが、マーク間際で順位を落としてしまった。自分が良かれと思っていた戦い方が裏目に出てしまっていた。そのことに気がつけたのは良かったですけど」(髙山)

 オランダのハーグ沖のレース海面は潮流の速さが特長的でした。特に風が弱くなるとその影響が大きいため、どれだけ潮流を味方につけるかが攻略の肝となりました。さらに今回の大会は軽風でのレースがほとんどというコンディションで、強風の得意な髙山/盛田はストレスを感じたかもしれません。

強風が得意なタイプと軽風が得意なタイプ

 ヨットレースに取り組んでいるセーラーには、強風が得意なタイプと軽風が得意なタイプがあります。もちろんオリンピックのような頂点を目指すセーラーであれば、全てのコンディションで他を圧倒するパフォーマンスが求められるわけですが、それでもやはり好みというものは存在して、それがそのセーラーの個性を形作っていたりします。

 強風と一言でいっても、海の上に出るとただ単に風速が強いというだけではすみません。風速が上がれば波も高くなり、海風であれば470級のマストが見えなくなってしまうほどの大波になります。ヨットを始めたばかりの小学生は、その海の形相の変化に泣き出してしまう者も珍しくありません。そんなヘビーコンディションを喜々とした表情でセーリングする強風好きは、セーラーとしての地肩が強いというか、船乗りとしてのプリミティブな能力が高いというか、いわゆる強靱なセーラーとして一目置かれる存在となります。

 髙山大智は無類の強風好きです。実は世界選手権が行われる前、マルセイユでの強化合宿から一時帰国して葉山(神奈川県)で練習している髙山大智と盛田冬華にばったりと出会ったので、そのときどれくらい強風が好きなのか聞いてみました。

強風大好きな髙山と盛田(Photo by Kazuhisa Matsumoto)

 「風は強ければ強いほど興奮してきますね。怖いと思う前に『どんな感じになるんやろ?』って興味の方が勝っちゃって。とてつもなくデカい波に乗ったときなんか、もう立ち上がってパンピング(セールを煽ってスピードアップさせるテクニック)したくなっちゃう(笑)」(髙山)

 こうなると、もう控えめに言って“フリーク”です、強風フリーク。ボードセーリングのように、構造が単純なセーリングギアであれば強風好きは普通の感覚なのですが、ステイと呼ばれるワイヤーに支えられたマストに取り付けられたセールを、これまた複雑なコントロールロープで調整するようなセールボートの場合、一定以上の風や波に対して恐怖感を感じるのが普通なのです。

 ところが、髙山の場合は子供の頃から恐怖感は全くなかったといいます。

 「ほとんどの子が怖がっているようなコンディションでも、僕は怖いと思ったことはありませんね。スポーツって体を動かして汗をかくのが気持ちいいじゃないですか。ヨットの軽風ってデッキに座ったままで何かイヤなんですよね。強風なら水をバシャバシャかぶって、頑張れば頑張るほどスピードが出るという感覚が好きなんです。逆に言うと、軽風で楽しいポイントを見つけたら今よりもっと速くなるのかもしれませんね」(髙山)

 では、クルーの盛田はどうなのでしょう?

「私が好きなのはオスカーコンディション(470級の場合、ある一定の風速以上になると運営艇に国際信号旗のO旗が掲揚され、通常は禁止されているロッキングやパンピングなどの加速行為が解禁される)でのダウンウィンドなんですけど、それも大智さんが安定してフネを走らせてくれているので好きになったような側面もあると思います。以前だったら25ノット以上(風速13m/s以上)でのセーリングとなるとビビってたんですが、今は楽しめるようになってます。大智さんと息を合わせて大きく身体を使ってロールをかけて、起こして、という中でフネが加速している実感が楽しいですね」(盛田)

 髙山と乗るようになったことで、盛田も強風好きに感染してしまったようです。事情通の読者の中には「来年の世界大会の会場となるマルセイユは地中海だから、あまり強風は吹かないんじゃないの? そんなに強風好きになったら軽風で戦えないんじゃないの?」と心配する人もいるかもしれません。確かに8月のマルセイユは一年の中でもっとも平均風速が低い時期ではありますが、一週間近いシリーズの中では強風が吹く日もあります。一方で極端に強風が好きなセーラーは軽風を苦手にする傾向があることも確かです。

切磋琢磨で上を目指せ

 今回の大会でもそうであったように、オールラウンドでレースを戦いきることは髙山/盛田の克服すべき課題と言えますが、それでも無責任な立場からすると、それでもいいじゃないかとも思ってしまいます。吹けば吹くほど興奮する髙山大智ってなんだかカッコイイんです。デッキに座ったままでゆっくりとトップフィニッシュする髙山より、ぶっ飛びながらフィニッシュラインを爆走していく髙山/盛田をみたいものです。

世界選手権は28位という成績に終わった髙山と盛田(Photo by Junichi Hirai)

 さて、話は逸れます。強風の話で盛り上がった後、久しぶりに日本に帰国した彼らに、いまハマっていることをちょっと聞いてみました。

「私は凍らせたフルーツをグラスに入れて、サイダーを注いで飲むのにハマってます。冷凍のブルーベリーとか、ベリー系がいい感じなんですけど、ちょっと潰してサイダーを注ぐ。潰さないで冷たいサイダーを飲み干した後に溶けかけたフルーツをガリガリ食べるのもいいんです」(盛田)
 と、ちょっとヨーロピアンなフローズンドリンクに夢中だという盛田ですが、半年前に沖縄で会ったときと比べると、ずいぶんとあか抜けて南仏のリセ風になっているではありませんか。恐るべしフランスの風。

 では、髙山がハマっているものは……。
 「マッシュルって漫画にハマってます。魔法界の話なんですけど、魔法が使えない主人公は魔法界での地位は低いんですが、メチャメチャ筋トレをすることで魔法を凌駕するほどのパワーを持っちゃう(笑)。箒で飛べない代わりに、足をバタバタさせるだけで飛べるようになっちゃう、筋肉の力で。そういうの好きですね、カッコよくないですか?」

  南仏の風に吹かれてリセになった盛田に比べて、髙山はほぼ中二病です。でも先述の強風好きという特性に重ねてみると、この向こう見ずで怖いものなしの中二病こそ、髙山の力の源泉のような気もします。

 磯崎と関は好調を維持し、さらに上を目指し、日本の中二病と南仏のリセのコンビは彼らを追い抜く飛躍へ!ヤマハセーリングチームのますますの活躍に期待しましょう。

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