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愛しのねこまんま。【レシピ- 船厨】

 時代小説に出てくる食事のシーンに興味を持たれる方は少なくないと思います。たとえば池波正太郎の人気シリーズ小説「鬼平犯科帳」や「仕掛人・藤枝梅安」「剣客商売」などは、季節に合った江戸の料理の数々~料亭の料理から庶民の食卓まで~が登場し、食いしん坊の読者を大いに楽しませてくれます。
 たまたま書店で手に取った山本一力の「銀しゃり」もそうでした。タイトルから想像できるとおり、江戸は深川の寿司職人を主人公とした小説なのですが、登場する料理や飯の食べ方一つ一つがとても興味深いのです。

 おけいの飯炊きの腕に大喜びした新吉は、今朝はとっておきの鰹節を削った。
 熱々の飯に、たっぷりの醤油にひたした鰹節をまぶす。鰹節と大豆醤油の両方の旨味が、炊き立て飯のなかで混ざり合うのだ。
 ひと一倍、米の吟味にはうるさい鮨職人ゆえに、新吉は飯の美味い食べ方を知り尽くしていた。
 「ひとはこの食べ方をよう、猫まんまなどとひでえことを言うが、それはとんだ了見違いだ。米と鰹節と醤油の三つの美味さが揃ったら、余計な添え物はいらねえ」

山本一力「銀しゃり」/小学館文庫

 この鰹節ごはんのポイントは、米、醤油、鰹節にこだわる、飯は炊き立て、といったところでしょうか。主人公の新吉は商品である酢飯にはもちろん、自分たちが普段口にする賄い飯にも通常の1.5倍の値がする庄内米を使っています。そして鰹節は「とっておき」とあります。おそらく醤油にもこだわりがあったのだろうと想像します。

 クルージング中、船上で美味い朝飯を手早く作るというのはクルーの腕の見せ所のひとつ。この極上「猫まんま」は、その点においてメニューに加えてもいいかもしれません。それどころかおもてなし料理にだってなりそうです。客人の目の前で極上の鰹節を削って、ごはんにかけてあげる。鰹節を削るだけで、楽しい食卓になりそうではありませんか。

 なお写真の鰹節は買ったばかり。もちろん香り高く、とても美味しいのですが、最初のうちはどうしても赤っぽく、細かい削り味になります。この鰹節も大切に時間を掛けて使っていくことで、色も淡く、ふわふわの、いわゆる花鰹が削れるようになるはずです。

鰹節ごはん

■材料
ごはん、とっておきの鰹節、とっておきの大豆醤油
■作り方
熱々の飯に、たっぷりの醤油にひたした鰹節をまぶす
※筆者は、この鰹節ご飯に醤油に加えてオリーブオイルを少し垂らすのが好きです。お試しあれ。

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