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“海の灯りを守る”ということの美しさ。 【キャビンの棚】

 灯台は海を象徴する代表的なアイコンです。そんな灯台の魅力を発信する「灯台どうだい?」というフリーペーパーがあります。
 その発行人で編集長の不動まゆうさんがこよなく愛し、同誌に頻繁に登場してきたのが灯室にあるフレネルレンズです。灯台マニアを心酔させる “フレネル様”こと、フランスの物理学者オーグスチン・フレネルが生み出したレンズ。同心円状に溝を刻み、スケール感と曲線の美しさを兼ね備えているレンズが、一部の灯台マニアにとってはたまらないらしく、ファンがいるようです。

 しかし、使用されなくなった灯台の取り壊しや、光源のLED化により、フレネルレンズは徐々に表舞台から姿を消しています。
 灯台の歴史は、紀元前に遡るほど古いのですが、灯台に電気が通ったのは、1920年代に入ってからのこと。そんな、電気が通る前の時代を舞台にする物語が今回紹介する児童向けの絵本「おーい、こちら灯台」です。

 小さな島の灯台にやって来た新しい灯台守とうだいもりが主人公。フレネルレンズから暗い海に放つ光は、船の航海の安全のためには絶やすことができません。灯台守は夜中に何度も目を覚まし、ゼンマイを巻き、レンズを回転させるのでした。もちろん、灯台守の仕事はそれだけではなく、夏のレンズのスス掃除や、冬の窓に固まる氷割りなど、厳しい仕事は一年中続きます。

 本書の著者は蚤の市で見つけた灯台の内部を描いた古い絵に着想を得たそうです。外から見た灯台ではなく、内にある灯台守の暮らしに惹かれ、「人里から離れた場所で孤独に暮らすってどんなことだろう」と思いをはせたといいます。

 日本国内の灯台守は、2006年の女島灯台(長崎県)の無人化により、姿を消していますが、海外を見渡しても、現代ではかなり稀有な存在です。その実際の仕事や暮らしぶりを見たり、聞いたりすることは難しくなってきましたが、著者は小さな島の灯台に滞在しながら、灯台守の暮らしを詳しく描きました。

 船の安全を導くために、夜通し“灯り”を守るとは如何なることなのか。
 同絵本はアメリカで出版された最も優れた子ども向けの絵本を選出するコールデコット賞に輝いた作品です。



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