身体を揺らしながら平和を想う、夏の夜 「EXODUS」 【キャビンの棚】
夏の足音が聞こえだしました。半袖と短パンで過ごす日も増えました。演歌からロックまで、スマホにため込んだ一貫性のない音楽をランダムでかけていたら、ボブ・マーリーが聴こえてきて、独特のレゲエのリズムが、それこそ夏の足音のように感じられます。要するに、ご機嫌です。
もう20年近くが過ぎたでしょうか。ジャマイカを訪れたことがありました。そのとき、2週間ほど行動を共にし、その短い期間に友情にも似た感情を通い合わるようになったジャマイカ人が、別れ際にブルーマウンテンコーヒーの詰め合わせと一緒にプレゼントしてくれたのが、この「EXODUS」でした。彼曰く「これはレゲエの最高傑作だ。日本で聞いてジャマイカを思い出せ」。
ジャマイカにおいて、アフリカの影響を受けた素朴なダンスミュージックが、アメリカ音楽の影響を受け、そこからスカやロック・ステディが生まれ、さらにメッセージ性を強く含んだ音楽へと発展したのがレゲエだと言われています。
冒頭で「ご機嫌」と書きましたけれど、歌詞の意味を追っていくと、ボブ・マーリーが作った歌は、反体制、政治的なメッセージを含む曲も多く、決して心を軽くするようなものばかりではありません。ただ、それだけでなく、普遍的な愛をテーマにした曲も数多く書いています。
このアルバムタイトルでもある「EXODUS」は新天地を求めたバビロン(アフリカ回帰を唱えるジャマイカの黒人による宗教・政治運動=ラスタファリにおける邪悪の象徴)からの脱出を歌っています。その一方、たとえば世界的な大ヒット曲となった「ONE LOVE」では、「ひとつの愛、ひとつの心、みんな団結して幸せになろう」と歌います。そのあたりは、人類の永遠のテーマなのかもしれませんね。
特にラスタファリに傾倒しているのでなければ、こうした理屈は、脇においておいてもいいと思います。筆者もよく分かっていません。しっくりと身体になじむレゲエ独特のリズムは心地よく、自然と身体を揺らします。それはボブ・マーリーの、レゲエの魅力の大きなファクターです。
暑い夏の夜に備えて、キャビンの棚に並べておいてはいかがでしょう。
※この記事は過去の「Salty Life」の記事に加筆・修正して掲載しています。