タイトルから連想した「港町ブルース」とはかけ離れた内容ですが。 【キャビンの棚】
1969年に森進一が歌って「日本有線大賞」に輝いた『港町ブルース』は、テレサ・テンら多くの歌手もカバーし、台湾やインドネシアなど海外でもヒットした名曲です。文字通り、全国各地の港町が登場するいわゆるご当地ソングで、実は、歌詞はレコードのプロモーションキャンペーンとして一般から公募されたものだそうです。
6番まである歌詞では、函館・宮古・釜石・気仙沼・三崎・焼津・御前崎・高知・高松・八幡浜・別府・長崎・枕崎・鹿児島と14の港町が歌われます。その詞の内容は、まあ、ムード歌謡としては王道と言うべきでしょうか、去って行った船乗りに惚れた女の切ない恨み節といったところ。女は男を追って函館から〈旅路の果て〉の鹿児島まで渡り歩きます。まるで巡礼です。
今回紹介したい本は、もしかしたらこの『港町ブルース』からインスパイアされて題名を考えたじゃないかと思ってしまったんですね。副題が「海洋国家日本の近代」とあるように、港湾政策を専門とする大学教授による研究に基づいた論考です。といっても、素人でも海や歴史が好きならば、「なるほどー」とヒザを打ちながら、その港町の成立や機能の変遷などの造詣を気軽に楽しめる読み物に仕上がっています。
考察される港町は、箱館(函館)・石巻・横浜・博多・宮津 ──第1部「つくられる国家」、広島・基隆・神戸・長崎・下関 ──第2部「移動する人々」、大阪・小名浜・舞鶴・東京・湘南 ──第3部「拡大する都市」の15港。こう比べてみると、重なっているのは函館と長崎だけですね。『ブルース』のほうは水揚げ港が多いようです。男は近海漁の漁師だったんでしょうか。ブルースの女は、そんな男たちが集まる酒場に腰掛け働きを繰り返しながら全国を巡ったんでしょうか。
おっと、ここまで書いてきて突然、「巡礼」の別の意味に気が付きました。これはアニメやドラマで言うところの「聖地巡礼」だったのかもしれません。あるいは「乗り鉄」の港町版。著者は文献資料だけに頼るのではなく、実際に全部の港町に足を運んで、(筆者撮影)の写真も豊富に掲載しています。本書を読めば、あなたもどこかの港町を選んで行きたくなることでしょう。
いい酒場が見つかるといいですね。