自分の責任で力を発揮できる漁師に憧れ 【ニッポンの魚獲り】
29歳の若さで、新造船〈共栄丸〉(DX-53C-0C)を進水させた小川大祐さん。
祖父の代からこの地でホタテ養殖を営んでいましたが、現役バリバリだった大祐さんの父親が病気で亡くなられ、大祐さんが養殖業の跡を継ぐことになりました。
「父親が亡くなってすぐだったんですけど、4年前に陸奥湾のホタテが空前の活況だったので、買うなら今しかないと思って決めました」
待ちに待って手元に届いた愛艇には、小川さんのこだわりのカラーリングが施されています。
「ちょっとしたことなんですけどね。他人といっしょじゃイヤじゃないですか(笑)。まあ、自己満足に過ぎないんですけど」
経験豊富な乗組員に支えられ
陸奥湾の西岸(津軽半島の東岸)に位置する外ヶ浜町の蟹田地区では、種付けから1年半で出荷する通称「ベビーホタテ」の生産が盛んです。春先に採苗器(タマネギ用のネット)に付着させた稚貝を、7月の第一週に種付けしてカゴに入れ、10~11月の間に大きなカゴに入れ替え、翌年の4~8月にかけて出荷します。
「水温が25度以上になるとホタテは死んでしまうので、水温を見ながら高くなりそうなときは水温の低い下の方にホタテを下げなくちゃダメなんです」
約200mの縄にパールネットと呼ばれるカゴが11個ほど連なったロープを約40cmおきに垂下します。小川さんのところではこの縄を30本管理しているので、水温に合わせてカゴの水深を一気に調整する必要があり、一時も気を抜くことができません。
出荷の時期は午前3時に出港して4時半頃に帰港。岸壁に着岸したらすぐさまホタテをカゴから出してトラックに積載。漁協にやってくる業者に引き渡します。この一連の作業が終わるのが午前7~8時頃。その後もカゴの清掃や浮き球の清掃などの業務に追われて、家に帰れるのは正午近くになるそうです。
収穫の時期には小川さんの船には5人の乗り子さんたちが乗り込みますが、全員が小川さんより年上です。若い船主を盛り立てるように、経験豊富な乗り子さんたちが見事な手際で作業をこなしていく様子は、どこかチームスポーツを思わせるような光景でした。
カッコいい船で楽しく仕事
地元の工業高校を卒業した小川さんですが、卒業後は漁業とは全く関係ない企業に就職したのだそうです。
「親の姿をずっと見ていてて“漁師は大変だなあ”という気持ちが強かった。あと、やっぱり一度は会社勤めにも憧れるじゃないですか(笑)。2年間働いてみて、当たり前ですけどラクな仕事なんてあるわけなくて、それならば自分の責任で力を発揮できる漁師の方が自分に合ってると感じて。あのときはわからなかったけど、今は家業を継ぐということって大切なんだな、と。設備ひとつとっても、これを一から用意することなんて自分独りではできない。本当に父や祖父に感謝です」
漁業の中では比較的安定した水揚げが見込める養殖業ですが、市場の動向は良くも悪くもなかなか予想どおりにはいかないようです。そんな先が読めない中にあって、期待通りの力を発揮しているのが、昨年新造した船だと小川さんは言います。
「船が大きくなったんで、当然のことながら作業効率は圧倒的によくなりましたね。少々の時化でも安定して走ってくれるし、満積載で走っているときでもパフォーマンスは全く落ちませんから」
先代の頃からのヤマハファンだという小川さんにとって、ヤマハ漁船の魅力とは?
「いろいろありますけど、やっぱりスタイリングじゃないですか? カッコイイって大事ですよ(笑)」