低水温でゆっくりと育てる厚岸のカキ 【ニッポンの魚獲り】
北海道の東の釧路市と根室市のなかほどに位置する厚岸町は、西からせり出した尻羽岬と湾口に浮かぶ大黒島に囲まれた湾(厚岸湾)が広がる穏やかな海を有しています。さらに湾の奥には、広大な森や湿原を流れてきた別寒辺牛川のミネラル豊富な淡水と、太平洋のプランクトン豊富な海水が混ざり合う汽水湖の厚岸湖が広がります。
そんな厚岸町の最大の名物はカキ(牡蠣)。日本には広島や宮城などカキ養殖が盛んなところは数多くありますが、厚岸のカキは一年を通じて出荷できることが特徴です。その理由は厚岸の海水温の低さ。低温でカキの成長が遅くなる性質を利用して、出荷のタイミングをコントロールできるのです。また、成長のスピードが遅めなので、厚岸のカキは栄養をたくさん取り込み、濃厚な味の身が育つと言われています。
種となる稚貝は、宮城県の気仙沼などから仕入れたもので、それを4~6月初旬に厚岸湖内の養殖いかだに吊します。その後、凪のときを見計らって、厚岸湾内のいかだに移します。沖の塩分の多い海で3カ月以上育てた後、再び塩分濃度が低く植物性プランクトンの豊富な厚岸湖に移すことで、厚岸のカキはより多くの栄養を蓄え、さらに熟成していきます。そして、出荷のタイミングを見計らって、適宜水揚げするというのが厚岸のカキ養殖の流れです。
カキ養殖で難しいのは、「カキの入ったカゴをどの深さに持って行くか」だと茂一さんは言います。「例えば、大雨が降ったときなんかは、湖の水面近くは完全な真水になっちゃうので、浅いところに吊してあるままだとカキは死んでしまう。その前にカゴを深いところまで下げておけば助かるんだよね。そこが汽水湖で養殖する難しさ」
濃厚な厚岸のカキの旨味は、カキを我が子のように手塩に掛けて育てる漁師さんたちの情熱によって熟成していくようです。