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数奇に満ちた、女海賊たちの真実。 【キャビンの棚】
カリブ海の地図を見ていると、「ピーターパン」のフック船長が、海の荒くれを率いて活躍したシーンが思い浮かびます。ウォルト・ディズニーの描く絶海の孤島。あくまでも青い空と海、白い砂浜、緑したたる椰子の葉。巨万の財宝を積んで沈んだ帆船、埋められた財宝と骸骨。ファンタジーに登場する海賊は、少年少女にとってどきどきするような魅力あふれる脇役でした。
すれっからしの大人になってもその余韻は残っていて、「海賊」とタイトルにある本にはつい手がでてしまいます。ましてや「女海賊大全」ときては。
2003年に刊行されたこの本のタイトルには、例によって男の想像がつくりあげた妖しい倒錯の雰囲気があります。男装の女性海賊が、いわゆる「女性らしい」魅力を振りまきながら、むくつけき海の男達と共に略奪にあけくれるというイメージ。でも、本書では4人の女性作家が、史実をたんねんに読み解き、男の想像の産物であるイメージとはかけ離れた女海賊の真実を追求します。
歴史に登場する海賊たちは、そのほとんどが冷酷無情な略奪者です。スペインの未開地への冷酷、非情な略奪、その富を狙ったイギリスやフランスの、国の事業としての海賊行為。食い詰め者が徒党をくんでの私掠船。ここに登場する女海賊も、伝説に彩られているとはいうものの、時には男以上に残忍な海の上の悪です。
「偉大なる略奪者にして最高司令官、そして海における窃盗と殺人の指導者」と言われたアイルランドのグレース・オマリーをはじめとする数奇に満ちた女海賊たちの生き様。
晩冬の夜、海賊ご愛飲のラム酒を飲みながら、悪の華の不思議な魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
「女海賊大全」
編著者:ジョー・スタンリー
訳者:竹内和世
発行:東洋書林
定価:¥4,620 (税込)
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