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緊張感を楽しみつつ、それを解消したいですね。 【キャビンの棚】

 拙子がはじめてフネ(ヨットでした)で海に出たときに、とても世話になった教本があります。「ヨット百科」という本でした。ヨットはなぜ走るのか、といったベーシックな知識はもちろん、ロープの結び方から天気図の読み方、荒天時の対応方法など実践的内容がふんだんに盛り込まれた名著だったと思います。とにかく世話になった本です。若いとき、その本で座学を行い、その後、海に出て実践的なトレーニングを行っていました。当時(今も、なんだけど)、金はなかったけど時間はあったので、いろいろなことが身につきました。

 ヨットを降りてパワーボートを楽しむことがほとんどになった今でも、わりと気軽に海に出て行けるのは「ヨット百科」を片手に積み重ねてきた「経験」のおかげだなと思ったりします。でも、「ヨット百科」のすべてを読んだかというと、実はそうでもない。フネで海に出る前に必要な知識というものは、まあ、本当のところは限られていて、実はそんなに多くはないのかもしれません。もちろん必要な知識は際限がなく、それを得ていくのも楽しみのうちだとわかった上で言っています。

 「初心者のためのボート遊び入門」は、その限られた必要な知識がまとめられたムックです。「ヨット百科」と同じ、ボートやヨット専門の出版社「舵社」から発行されました。初心者のための、とありますが、その通り。これさえ読んでおけば、あとは実際に海に出て行ける、といった内容がわかりやすく、楽しくまとめられています。もちろん件の「ヨット百科」や巷の「ボート免許の教習本」のような堅苦しさは微塵もありません。あくまでも楽しい。

 人気のプレイアイテム「釣り」のノウハウも、魚群探知機の見方まで載っています。ある程度のベテランにとっても、いわゆる「今さら人に聞けない」ノウハウもきっとあるはず。こっそり読んでは頭の中にたたき込んでおくのもいいかもしれません。いずれにしろこれからボートを楽しんでみようとしている方、そのことに不安を覚えている方にとっての『ヨット百科』になるのではないかと期待します。

 一時期のステイケーション需要の拡大に伴って、ボート免許を取得する人が急増しました。実際にボートで海に出ている人もレンタルボートの利用者数などのデータをみると増えてきたことが伺えます。それでも、免許を持っているにもかかわらず、海に出ることのないペーパーボーターが相変わらず多いことも事実です。やはり免許を取得したからとて、いざ船長としてフネを実際に運航するのは、なかなかハードルが高いのですよね。

 ある初心者のレンタルボート会員の方に、友人を招いて初めてデイクルージング(日帰りクルージング)したときの感想を聞いたことがあります。
 「とにかく、マリーナでの振る舞いや、海に出ている間も、ゲストの手前、“そつなく”行動することに腐心するばかりで疲れちまったよ」
 少しばかりの先輩風を吹かしつつ、笑って聞いていました。わからないこともないです。ただ、失礼を承知でいえば、それぐらいの緊張はぜひ体験してほしいものです。それって楽しいじゃないですか。乗り越えましょう。

 フネ遊びは常に労働を伴うものです。自然の驚異に遭遇することもあります。でも、それを楽しむ遊びだという信条が個人的にはあります。
 「これ以上、ハードルを上げてどうするんだ」という声も聞こえてきそうですが、船長だけでなくゲストや家族にも、クルーとして、その労働や楽しさ、緊張感を楽しんでほしいという願いが、拙子にはあります。きっと、それは安全な運航にもつながるはずなんです。
 というわけで、自分だけでなく、家族や仲間とも、こんなムックで学び合えたら良いのにな、と思った次第です。もちろん、船長であるあなたはしっかり予習して、勉強会も“そつなく”やり過ごしていただきたい。ご安航を祈ります。

初心者のためのボート遊び入門
発行:舵社
価格:980円(税込)

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