荒んだ海賊のイメージを振り払い、上品にいただく冬の夜のラム 【レシピ- 船厨】
ずいぶんと行っていないけれど、ある世界的なテーマパークの、海賊のコーナーが好きでした。17世紀から18世紀にかけて、カリブ海で暴れていた海賊の狼藉ぶりを、レールの上をゆっくり走る小さなボートのような乗り物に乗って見て回る、アレです。動く人形がたくさんいるのですが、その海賊のほとんどは酔っ払っているように見えます。記憶違い、思い込みかもしれませんが、ボトルをラッパ飲みしている人形もあったような気がします。たぶん、ラムです。船乗りの酒です。
サトウキビを原料に作られたこの蒸留酒は、カリブ海、西インド諸島のどこかの島が発祥ということになっています。ただ、もともとサトウキビはアジア原産の植物で、カリブには自生していませんでした。ヨーロッパの入植者が持ち込んだところ、よく育つものだから、産業になったのです。で、ラム酒も生まれます。
船乗りの酒として広まったのは18世紀に入ってから。安くて強烈なこのお酒は、カリブ海の海賊や、東洋航路の船乗り達に愛飲され、普及しました。
水兵の士気を鼓舞するため英国海軍の常備酒とされていた時代もあります。ケチって水で割ったラム酒は、たちが悪く、悪酔いしたものだから、それを考案した海軍提督が着ていたコートのブランド名から“グロッグ”と呼ばれていました。要するに上司に対する陰口でした。で、英語のgroggy、日本でグロッキー(ふらふらする)という言葉になりました。
さて、ラムは、そのままでも美味しいのですが、それ故に、いろいろなカクテルのベースとして使われます。キューバリブレ(ラムコーク)はお馴染みですね。モヒートもラムベース。そしてラムベースの冬のカクテルと言えば、この「ホット・バタード・ラム」。ここまで来るとと、荒くれ海賊のイメージは跡形もなくなります。タイトルの写真の左はダークラムのお湯割りにバターを浮かべたもの。右はお湯の代わりに温めた牛乳を使っています。これは「ホット・バタード・ラム・カウ」です。なんとストレートな名前でしょうか。海賊どころか、船乗りのイメージから、さらに、遙か彼方に遠のく気もしますが、冬の一時期、ごくたまにしか飲まないこの優しいカクテルがとても好きです。