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海の冒険やロマンに導く読書のベストガイド 「世界の海洋文学・総解説」 【キャビンの棚】

 「作者が海の作家として優れているかどうかは、どれだけ海のことをよく知っているかであり、作品の中から真実を伴った潮の香りを伝えてくれるかです」

 フランス出身の航海士でベストセラー作家でもあるA・ジェルボーの言葉です。彼は20世紀初頭に200冊の海洋文学書物を携え、世界一周の航海をした逸話を持つ愛書家としても知られています。
 彼の言葉にある「潮の香り」を作品に求めること自体が海洋文学の伝統的な楽しみ方の一つなのでしょう。まだ海洋文学にあまり馴染みのないという方には、もしかしたら理解のできないことかもしれません。しかし、作者が自身の海洋知識や感性で海のリアリティを帯びた作品にすれば、きっと読者の心を「潮の香り」で充せられるはずなのです。

 そんな潮の香りを充たす作品ばかりを世界中から集めたのが、本書「世界の海洋文学・総解説」です。「白鯨」、「老人と海」といった名著から、古代ギリシャの吟遊詩人が詠った叙事詩や、夫婦で自作したヨットでの太平洋横断の自主出版書まで約400冊を取り上げています。作品は海洋小説、海洋冒険小説、海洋戦記文学、海洋少年文学、海洋ドキュメント、探検・冒険・漂流の記録、航海記録、紀行・随想・詩歌・戯曲の8項目で分かれていて、とてもわかりやくなっています。

 また歴史的な名著は、最大3ページで構成されていて、内容のアウトラインや著者のプロフィールなどお試し感覚で楽しめるよう掲載されています。作品集以外にも、ナイル川のパピルス船からはじまる7000年の海の歴史を網羅した年表や優れた海洋文学を考察する「海洋文学の系譜」もあり、読み応えたっぷりです。

 著者は海員学校出身の海洋ジャーナリストである小島敦夫氏。月間「海の世界」編集次長、「オーシャンライフ」編集長を歴任し、著書の「海賊列伝」や「至高の銀杯=アメリカスカップ物語」で知られる人物です。

 海洋文学をこれから読んでみたいという方は、ぜひ一度手にとってみてください。ガイドブックでありながら、潮の香りを伝える不思議な本です。最後にこの本を制作した人々の思いを皆さんに贈ります。

「どうぞ、海とのよい出会いを」

「世界の海洋文学・総解説」
編著:小島敦夫
発行:自由国民社
参考価格:1900円

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