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魚体の美しさと鮮度が求められるー 青森県・大畑の底建網漁 【ニッポンの魚獲り】

青森県下北半島の北東岸、津軽海峡の東の入り口に面した大畑町(むつ市)は、町内人口約6,150人のうち、約600人が漁業協同組合に加入している漁業の町です。釣り漁、小型定置網、籠漁、縦網漁など多彩な漁が行われており、マイカやサケ、ブリ、ウニなどが水揚げされています。その大畑町で、漁師として暮らす杉本洋一さんと、愛艇「第二十七香沙丸」による底建網(そこだてあみ)漁をご紹介します。

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網を設置して魚を待つ、自然に優しい漁

 11月も終わろうかという某日。まだ日の昇らぬ早朝、大畑川河口の漁港から〈香沙丸〉が舫いを解き、底建網の漁場を目指し出漁していきます。本州で初雪を観測したこの日、大畑には前日から冷たい雨が降りしきり、港を出る前から、漁師さんたちの合羽を濡らしていました。

 昭和46年生まれの杉本洋一さんは、この大畑町で生まれ育った漁師さん。大ベテランである父親の賢一さんとともに、中学生の頃から船に乗り始め、底建網に出漁する日々を送っています。
 底建網とは、定置網と同じく、複雑な形状をした網を海中に設置する「待ちの漁」。中表層の魚を狙う定置網に対して底建網は、網を海底に沈めて、底を泳ぐ魚を呼び込むすタイルです。
 漁場は、港と目と鼻の先と言っていいほど近く、この海域に仕掛けた10ヶ統の底建網を6時間ほどかけて揚げていくのが年間を通しての〈香沙丸〉の仕事となります(7月から9月は禁漁期)。

 船ごと身網(網の主要部分)をくぐり抜けていく要領で網を揚げていくため、〈香沙丸〉には多くの漁船にみられるブリッジ(船橋=操舵室)が見当たりません。また舵輪(だりん=舵を取るハンドル)も存在せず、操船はすべて電気式のリモコンで行います。この舷より高い位置から余分な突起物すべて廃した、平べったい船の形は、津軽海峡の建網船の特徴となっています。

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 雨がやみ、靄が立ちこめる海の中、ゆっくりと時間をかけて網を引き寄せ、袋網(建網に迷い込んだ魚が溜まる網)に到達。この日の漁獲はヒラメが中心でした。
 ヒラメの場合、特に魚体の美しさと鮮度が要求されるため、クレーンではなくタモ網を使って丁寧に魚を掬い上げ、すぐさまデッキの上で選別作業を行います。

工夫と愛情が注がれた新造船〈香沙丸〉

 大畑に登録されている底建網漁船は計5隻。漁協が定めた海上の全50区画が各艇に10区画ずつ割り当てられ、1年ごとにその場所をローテーションさせながら操業していく管理型の漁業です。
 「水温の影響がいちばん大きいと思いますが、水揚げ高はもちろん浮き沈みがあります。船を新造した年ぐらいは大漁続きであって欲しかったんですが、そう簡単ではないですね(笑)」

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 この新しい船に名付けた〈香沙丸〉は、洋一さんのお嬢さんの名前からとったもの。お嬢さんへの深い愛情は、この船にも注がれているように思えます。
 「走って良し、安定性も申し分ない。大いに満足しています」
バルバスバウ(造波抵抗の減少を目的に船首喫水部分に取り付ける突起物)の採用、舵板の独自の形状、イケス(魚艙)の大きさなど、この船には杉本親子の意見を取り入れた様々な工夫が凝らされています。
 〈香沙丸〉の仕事は始まったばかり。この新しいパートナーの活躍に杉本さん親子は大きな期待を寄せています。

ヤマハボート


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