子どもの頃に憧れていた大人の味、栄螺。 【レシピ- 船厨】
食いしん坊の筆者が幼かったころ、大人になったら必ずやってやろうと思っていたことがいくつかありました。そのうちの一つはホールケーキの独り占め。そしてもう一つ、よく思い出すのが、ビールを飲みながら海辺でサザエ(栄螺)を好きなだけ食べる、ということでした。
子供のころの筆者にとってサザエは「大人だけが食べることをゆるされたもの」だったのです。海水浴場のにある海の家などで旨そうにサザエを食べている他人を羨ましいと思っていましたが、父は偏屈なのか、自分がそれほど好きで無かったのか、たぶん両方だったという気がしますが、「子どもが食べるものではない」と筆者にそれを食すことを許さなかったのです。
ホールケーキの方は学生時代に実現させましたが、思ったほどの感動はありませんでした。サザエの方はというと、やはり学生時代に伊豆にクルージングに出かけたときに、実現しました(だったと思います)。
アチチチ、などとつぶやきながら、指先で貝殻を押さえ、中身を上手にほじくり出します。貝蓋を手に持って、熱々の身を、肝と一緒にかじりとって口の中にすべて放り込む。一口で食べるのです。ハフハフしながら噛んでいくと、いわゆる磯の風味が口の中一杯に広がります。磯の風味と書くのは少々乱暴かもしれません。その味は「旨い」を通り越して「美しい」とさえ思えます。そうか、だから「美味い」とも書くのでしょう。もちろんサザエに限ったことではありませんが。
とにかく、無事に大人になれて良かったです。
まるごとケーキはもう遠慮しておきますが、サザエはもちろん、今も大歓迎です。海辺におらずとも、鮮魚屋さんなどでみつけると、ついつい買い込んでしまいます。
福井産のサザエをたくさん買いました。大人になって心に余裕のできた筆者は、壺焼きはほどほどに、残りのほとんどを炊き込みご飯に使いました。魚介をご飯と炊き込むときは、他の具材は使わないことがほとんどなのですが、今回は生姜を少し加えてみました。
これもまた、絶品です。