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ハワイの波とともに生きた若きサーファーたちの物語「波乗りの島」 【キャビンの棚】

 常夏の楽園、ハワイを舞台に、波乗りたちの喜びや悲しみを描いた「波乗りの島」(1979)。青春小説「スローなブギにしてくれ」の著者として70~80年代に一世を風靡した片岡義男の、海洋ものの傑作です。

 本作は片岡義男の「ハワイ四部作」の1作目で、ほかの3作品と同じく、主人公は、ハワイで働く日系二世の「僕」です。これは、米国の市民権をもつ日系二世だった片岡の父と重なっています。そこで、環境破壊を背景にしながら、「自然の波」を守ろうとする地元のサーファーの男女を、太平洋の雄大な「自然」とともに描くのです。

 たとえば、埋め立てによりなくなってしまうビーチで、チューブライディングをするために、月あかりで青く光る波に乗るシーン。そして、観光開発によってとりつぶされることになった地元の憩いの場でサーフ・ミュージックを奏でるシーン。

 これらはハワイの島々におけるさまざまな実話からインスパイアされていて、現実には消えてしまった「古きよき時代のハワイ」を描くことで、文明批判の意味をもたせています。
 また、本書の魅力には、サーフィンの美しい描写もあります。私のようなサーフィンの経験がまったくない者に対しても、サーフィンの光と音の躍動が伝わってきます。

「波乗りの島」
著者:片岡義男
発行:角川文庫
定価:340円(税込)

 こうして、本書は、文明=開発に対する非難、そして波と生きる人間へのあこがれも感じられる海洋文学の名著として今も読み伝えられています。

 双葉文庫からも改訂版(1998)が刊行されているほか、著者の好意により、無料で読める青空文庫でも全編を公開しています。

文:上野就史(うえの なりふみ)
渋谷の小さなミュージックバーの元店長。30歳直前に渡欧し、カナリア諸島テネリフェ島に滞在。帰国後の編集プロダクション勤務で海をますます好きになった。現在はフリーランスのライター。1984年生まれ、福岡県出身。


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