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過酷な海で過ごした、かけがえのない人生の一瞬 「青春」 【キャビンの棚】

 かつて「大英帝国」として7つの海を制したイギリスには、「ロビンソン・クルーソー」や「ガリヴァー旅行記」、さらには「海賊」、「宝島」など、海の冒険やロマンを描く数多くの海洋文学作品が生まれました。「海とその冒険を描き、語る」という伝統が英国文学にあるといわれるほど、イギリスは海洋文学が盛んな国なのです。

 そんな英国海洋文学のなかで、「海への憧れ」をテーマに英国海員の精神やロマンを美しい英語で執筆された作品のひとつが、元船員の作家であるジョゼフ・コンラッドによる「Youth(青春)」です。

 本作の主人公は、二十歳ではじめて二等航海士になったマアロウ。一人前の船員になりたい一心でボロ帆船に乗り込んだ彼は、時に生命の危険ともなる自然の脅威をものともせずに憧れの東洋をめざすことに。そんな青春時代に思いを馳せながら20年後の回想形式として語られていきます。
 挫折を知らないひたむきさと、ちょっと哀しくなるほど無知なマアロウにとって、海で過ごした青春の日々は、どのようなものであったのか。そして、青春を振り返ったときに何を思うのか。

Youth(青春)
著者:Joseph Conrad(ジョセフ・コンラッド)
発行:‎Createspace Independent Pub
参考価格:¥737(税込み)

 著者のコンラッドは37歳まで20年ほど船員として生活をしていました。船長としても、アジアやアフリカなど、さまざま航海の経験を積んだ人物。「青春」はジャワ沖で火災に巻き込まれた自身の体験がもとになったといいます。

 「イギリスのように、いわば人間と海とが、たがいに隅々まで浸みこんでいる国…海が多数の人間の生活のなかに入りこんでいて、人間の方も、娯楽でか、旅行でか、それとも生計の道としてか、海について多少とも、あるいは何から何まで知っている…。」
 本作の冒頭にある一節は、英国民の海に対する理解の深さを示す言葉として有名です。この言葉からはじまる物語は如何なるものでしょうか。

 カバー写真は、コンラッドとほぼ同時期を生きたジョン・テーラーの作品「嵐で遭難したデルタ号」。本作は英語版ですが、日本語版としてそのほか短編をまとめた「青春・台風」が新潮文庫から出版されています。

文:上野就史(うえの なりふみ)
渋谷の小さなミュージックバーの元店長。30歳直前に渡欧し、カナリア諸島テネリフェ島に滞在。帰国後の編集プロダクション勤務で海をますます好きになった。現在はフリーランスのライター。1984年生まれ、福岡県出身。


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