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幻想的な夜の海で獲られる、日本料理に欠かせない煮干しの原料。 【ニッポンの魚獲り】

 日本料理の出汁になくてはならない「煮干し」。その生産量は長崎県が日本一で、全国の3分の一を占めるほど。その長崎県の雲仙市に面する橘湾では、煮干しの材料となるイワシの敷網漁が行われています。
 〈若義丸〉の関直光さんは、高校を卒業と同時に父親とともにイワシ漁に取り組みはじめました。以来、20年以上もイワシ漁に携わってきました。今は独立し、船頭としてイワシ漁を指揮する立場です。

 イワシの敷網漁の出漁は夜中の1時。イワシ漁について関さんは「経験と勘、それと他船との情報交換が決め手です」と説明しながら、暗い夜の海の上で、魚群探知機を見つめ、イワシの群れを追い求めます。
 海底にイワシの群れを発見すると、集魚灯を煌々と照らし、右舷側に取り付けられた長いポールを使って網を張り出します。船は大きく横に傾きますが、関さんをはじめとする乗組員たちはデッキの上を易々と動き回り、網を引き寄せはじめます。

魚群探知機の他、経験と勘、他船との情報交換が頼り
敷網の重みで傾いたデッキの上を易々と動き回り作業を進める

 〈若義丸〉は2020年に進水したばかりの新造船です。船選びにはいくつか候補があがりましたが、関さんは全長に対して横幅の比率が高かったDY-53C-0Aを選びました。それだけ横方向の安定性にこだわったということです。
 「操業中にこうして船が傾くこと、さらにイワシを運ぶとき、つまり重荷時の安定性も重視しました。これまで乗っていた船に比べて作業性はもちろん、走りもいい。満足しています」(関さん)

関さんの愛艇〈若義丸〉

 網に入った大漁のイワシは、網を舷側に引き寄せてからクレーンで引き上げ、魚艙へと蓄えられていきます。イワシの群れに出会うと網を入れ、その作業を何度か繰り返しては、次のイワシの群れを追い、同じ作業を繰り返す。夜が明けるころには、イワシが満船に近い状態となり、帰港します。

 帰港後、港の岸壁に船を横付けにするとすぐさまポンプでイワシをトラックのイケスへと移し替え、加工工場へと運び出します。加工工場には、一時体調を崩し漁を引退した後も、今は回復し直光さんをバックアップする父親の重光さんたちが新鮮なイワシの到着を待ち構えていました。多くの人はまだ布団の中にいる時間です。

その日のうちにイワシから煮干しへと加工される

 イワシは工場内の専用の釜でさっとゆであげられますが、その時に海水を使用するのが長崎産の煮干しの特徴となっています。そのことで旨み成分が凝縮され、風味豊かな煮干しができあがるといわれています。
 ゆであげたイワシは一度屋外で水を切り、その後、乾燥室に運ばれ、12時間後には煮干しが完成します。

 小さな煮干しにも、漁労から加工まで、人々の熱意や工夫が凝縮しているのです。

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