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海を哲学すると優しい気持ちになれるのです。 【キャビンの棚】

 もしかしたら、この本は舞台が海でなくてもよかったのかもしれません。そして、主人公がくじらといるかでなくてもよかったのかもしれません。ひととおり読んでそんなことを思います。けれど、また最初に戻ってページを開くと、やはり、海の本なのだな、と思い改めるのです。

 海は、人の涙でできあがった、というふうに書いてあります。

 それはたしかに 悲しみの波
 それはたしかに つらさのうねり
 それはたしかに そうなのだが
 ごらん いつのまにか
 涙の海に 生まれてそだった
 泳ぐものたち
 笑い 歌い そして遊ぶ
 泳ぐものたち
 ひとはみな いつだって
 塩からくて にぎやかな
 海を 抱いて いるのだ

ともだちは海のにおい(理論社/工藤直子著)

 巻頭にあるこれを読んで感じたのは、ビル・エバンスが弾いた「SEASCAPE」に歌詞を付けたらこんな歌になるのではないかな、ということでした。時に人を受け付けない態度、表面的な美しさを越えた神秘性、人の心を包み込むような神々しさ。冷たくとも、暖かみのある、深い海を、この詩は感じさせてくれます。

 くじらといるかは、そんな海に住んでいます。2人(2頭)の会話はいつだって優しい。くじらはビールを飲みつつ眼鏡をかけて本を読み、哲学します。いるかは、くじらの話に耳を傾け、一緒に考えたりするのです。

 彼らの会話のひとことひとことが心に染みます。こんな友だちが欲しいなと思います。けれども読んでいると、こちらもくじらと、そしているかと友だちになって一緒に海にいるような気分になってきます。
 子どもじみた言い方かもしれませんが、海はすでに友だちなんですね。

 子どもたちだけでなく、大人にも読んで欲しい珠玉の児童書です。

「ともだちは海のにおい」
発行:理論社
著者:工藤直子
絵:長新太
定価:1,320円(税込)

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