「ドライカレー」で船旅気分 【船厨-レシピ】
今は亡き知人にドライカレーが得意な老婦人がいました。その人のこさえるドライカレーは、ひところ喫茶店などで見かけた、ピラフやチャーハンのようなドライカレーではなく、カレー味で煮込んだ挽肉がご飯にかかっていました。レシピは自己流だと言っていましたが、付け合わせは、きまって福神漬けとゆで卵でした。このスタイルのドライカレーが、ある時代、豪華客船のメニューとして人気だったことを、後になって知りました。そういえば、駆け落ちして一緒になったという老婦人のご主人は、なかなかの趣味人であり、知識人でした。そうと知って、このカレーを奥さんに作ってもらっていたのかな、などと想像しています。
このドライカレーは、商船会社の大手・日本郵船の欧州航路船で日本人の料理長が考案したものだそうです。横須賀海軍カレーなども近ごろ有名ですが、そもそも明治時代に生まれた「カレーライス」という日本独特のメニューは、実は海ととても関係が深く、イギリス海軍で供されていたシチューがベースになっています。
「カレーと福神漬け」という、よくよく考えれば不思議な組み合わせも、日本郵船の客船で考案されたものだといいます。日本郵船の公式サイトによれば、1916年(大正5年)に大量の福神漬けを仕入れていたことを示す資料が残っているとのこと。また、当時は福神漬けが高価だったことから、三等船客では「たくあん」が代用されていたそうです。
それにしても、このドライカレーはけっこうイケます。使うカレー粉にこだわったり、辛さを変えてみたりと、ひと工夫するのも楽しいですね。ぜひオリジナルのドライカレーで船旅気分を味わってみてください。
※この記事は過去の「Salty Life」の記事に加筆、修正して掲載しています。