ピアノの旋律に乗り、世界の海をクルーズ 【キャビンの棚】
フランスのブルターニュ地方の海岸線は「コート・ソバージュ」(野性の海岸)と呼ばれます。複雑に入り組んだ海岸のところどころに情緒ある小さな漁港が点在していますが、フランスの代表的なリゾートエリアでもあり、人々は海の恵みで舌を喜ばせ、また、ボーティングやセーリングを愉しんでいます。その一方、冬になると西からの強い風に吹き付けられ、厳しい自然にさらされます。
ディディエ・スキバンはそんなブルターニュに生まれたピアニスト。本人が言うように、彼の創作のインスピレーションはブルターニュの海から生まれています。確かに起伏の美しいきらめく旋律は、ブルターニュ地方の複雑な美しさから生まれたものなのかな。そんなイメージです。
ご紹介する「バラッド~海辺のピアニスト」は日本におけるディディエ・スキバンのデビューアルバムです。ライナーズノートには本人の言葉で「皆さんを心の散歩に誘う」とあります。
1曲目でマラケシュからイスタンブール、2曲目でクロゾン半島へ、3曲目では地球一周、インドネシアから中国、そしてブルターニュの主題が隣り合う、長い世界への航海へと誘いだしてくれます。それらの場所がわからなければ、曲を聴きながら地図で確かめてみてください。
ちなみに、本欄がディディエ・スキバンに出会ったのは、実はいわゆる「ジャケ買い」でした。浜を洗う波の美しい写真にひかれたのです。もう20年も前のことです。その後、出てくるスキバンのアルバム・ジャケットは、ほとんどが海をモチーフとしたもので、その写真がありきたりな「きれいな海」の写真ではなく、カッコいい灯台であったり、港のボラード(係船設備)だったり、マニアックな海好きの心を惹きつけるものばかり。これだけでもコレクションにしたくなります。