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“足が痒くなる”子どもたちの航海物語 「ヤマネコ号の冒険」 【キャビンの棚】

 世界にはおよそ6,900もの言語があると言われていますが、そのそれぞれに表現の面白さがあります。英語は日本人にとって代表的な外国語ですが、もちろんそれにも面白い表現がたくさんあります。
 例えば「かゆい足=get itchy feet」もその一つ。虫にさされた様子を表現した言葉ですが、その他に、旅や冒険に出たくてウズウズしていることを意味します。大航海時代から、世界の海を旅するイギリス人らしいフレーズなのかもしれません。

 そんなイギリスには、現地の子どもたちの足を大いに痒くしてきたであろう児童文学があります。それはアーサー・ランサム(1884~1967)の『休暇物語』と呼ばれる12作のシリーズ。主人公の子どもたちが休暇に集まって、ヨットや帆船で旅する物語です。
 当地では、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」のファンを「シャーロキアン」と呼ぶのに対し、アーサー・ランサムシリーズのファンは「ランサマイト」と呼ばれるような存在で、その作品には確固としたファンが存在し、今なお子どもたちに読み継がれているのです。

 親元を離れた子ども同士が協力して船を操船して旅をするストーリーだけでも面白い。しかし、このシリーズの魅力は他にもあるような気がします。それは、優れたヨットマンであったランサムならではの、正確な専門用語によるリアルな船の描写です。
 子どもにとって知らない言葉ばかりで読むのをやめてしまうのでは?と思ってしまうのですが、なじみのない海の言葉がかえって興味を引くのだとか。また新人セーラーがクルーワークを仕込まれるかのように、それらの言葉が繰り返し登場するので、読み進めていくと船の知識が自然とつくというのもあるようです。実際このシリーズをきっかけにヨットやボートに乗りはじめたというような人も多いのです。

 さて、今回紹介するのはシリーズの第3作『ヤマネコ号の冒険』です。前作までの舞台であった湖から、ついに海へ。子どもたちがようやく大西洋横断の航海に乗り出します。潮の香りが沸き立つかのような描写がちりばめられた、シリーズで最も人気のある作品です。
 何度読んでも新しい発見がある、というちょっと不思議な作品。大人になってから読み始めても、きっと楽しいはず。読書の秋、新しい物語の世界にふれてみてはいかがでしょう。

「ヤマネコ号の冒険」
著者:アーサー・ランサム
発行:岩波少年文庫
定価:880円(税込)


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