気になる、もうひとつの前線。 【Column- 潮気、のようなもの】
温暖前線、寒冷前線、そして停滞前線。船乗りにとって、気象の変化をもたらす前線の動きはとても気になる。そしてもうひとつ、気になる前線が。そう、桜前線。
桜の開花予想が気になる季節になった。サイトでチェックしながら自分の休日の予定と重ね合わせる。この作業は、天気図を見ながら雨や風を予測するのと同じくけっこう重要で、外すと、同じようにがっかりする。
日本人にとって、桜は古くから特別な花だ。中世の随想家や戦国武将も桜を愛でてきた。江戸時代には江戸や大坂、京都で、庶民も桜の木の下にゴザを敷き、宴を設けた。そして、私たちは、ボートに乗って桜を見に行く。こんなにも風流な遊びは、世界のどこにも見当たらない。
さて、いよいよ花見ボーティングの当日、うきうきとしながら、いつもより少し頑張って豪勢な弁当を作る。マリーナに着くと、飲み物と釣り道具(人によってはいらない……)を積み込んでボートで出かける。
出かける先は、高層住宅や工場がひしめく東京の水辺だが、ボートから桜を愛でることのできるエリアは意外と多い。隅田川はもちろん、岸辺に人が多いのが気になるなら、支流に入ってもいいし、浜離宮のような公園や、目黒川などの小河川をボートで行くのも楽しい。水鳥が桜の花びらとともに舞うシーンに出会ったりすると、「日本に暮らしていてよかった」などとつくづく思ったりする。
まだ、幾分かの寒さが残ると思うが、うららかな日差しの中を花びらがデッキに舞い落ちてきたりすると、思いきり春を感じることができる。
私の場合、花見は東京で楽しむことがほとんどだが、以前に、琵琶湖でそれを体験したこともこともあった。
大津にあるマリーナから、湖北の海津大崎を目指した。琵琶湖大橋をくぐり抜け、北へ針路をとった。比良山地の山々にはまだ雪が残っており、湖上の冷たい風がとても心地よかったことが思い出される。
目的地に到着すると、圧倒的な桜の存在感に息を飲んだ。
海津大崎の桜は1936年に海津トンネルが完成したのを記念して、当時の海津村が植樹したことに由来する。およそ90年が経とういう現在は「日本のさくら名所百選」にも選ばれるほどの規模となった。桜の木にも人間と同じく年齢による衰えがある。海津大崎の桜は最盛期ほどには花の付け方に勢いがないと言われている。
とはいえ、地元の人々が丹精を込めて手入れをしているだけに美しさは折り紙付き。
ここも隅田川と同様、桜のシーズンになると陸地には多くの人々が集まってくる。満開の周辺の休日は交通規制も行われるようだが、ボートでアプローチする分にはその影響が全くないのだ。
桜の花は水の上から眺めてこそ美しいと、少しばかり優越感に浸ることができる。
気象庁による、2024年の開花予想をチェックしたら、今年は全国的に平年並みか、平年よりも少し早めの予想。海津大崎は毎年4月の中旬が満開となる。京都市内に比べると1週間程度遅れて満開になるそうだ。