新チームで初めての世界選手権。この悔しさは必ず糧になる 【We are Sailing!】
このマガジンの読者の皆さんなら既にご存じかと思いますが、ヤマハセーリングチームがチャレンジしている国際470級という種目は、2024年のパリ大会から男女混合のミックス種目となることが決まっています。前回の東京大会までは、男子/女子とそれぞれ2種目行われていたものが、次回からは男女混合の一種目となるのです。
今年の10月末、イスラエルのスドットヤム・ヨットクラブで開催された2022年470級世界選手権大会は、男女混合種目として初めて開催される世界選手権となりました(2020年大会は世界的パンデミックで中止、2021年大会は延期された東京五輪の前に開催され男子/女子/男女混合の3種目開催となったため)。
世界の注目は男女のポジションによる優劣
日本からはヤマハセーリングチームの髙山大智/盛田冬華、磯崎哲也/関友里恵の2チームのほか、東京大会男子代表ヘルムスマンと女子代表クルーのコンビ岡田奎樹/吉岡美帆(トヨタ自動車東日本・ベネッセホールディングス)と、女子470級代表ヘルムスマンとしてオリンピックに4回出場した吉田愛/木村直矢(ピアソンマリンジャパン)の4チームがエントリー。いずれも男女混合チームとして世界選手権に出場するのは初めてで、いま現在の日本の立ち位置を測る上でも重要なレガッタとなりました。
また、世界のセーリング関係者の注目を集めたのが、男女のポジションの違いで優劣が生じるのかどうか? という点です。つまり、男子がヘルムスマン(もしくはクルー)をした方が速いのか、それとも女子がヘルムスマン(もしくはクルー)をした方が速いのかという疑問です。
今大会にエントリーしたのは20カ国、60艇で、男子ヘルムスマン/女子クルー(以下、男子/女子)が30艇、女子ヘルムスマン/男子クルー(以下、女子/男子)が30艇と完全にイーブン。上位30艇のゴールドフリートでは男子/女子が17艇、女子/男子が13艇、上位10艇の比率は男子/女子が7艇、女子/男子が3艇とやや男子/女子が有利にも思えますが、今大会で優勝したドイツチームは女子/男子の組み合わせということで、今大会の結果を見る限りポジションの違いによる明確な優劣はありませんでした。
一方で、風域によっては明らかな差が生じるケースもあり、シリーズ全てのレースが一定の風域で行われた場合には、極端な優劣が生じる可能性もありそうです。風域による男女組み合わせの優劣差については、機会があればまたお話ししたいと思います。
さて、気になる日本チームの成績はどうだったのでしょう? 今大会は前半の5レースが予選シリーズ。その後そこで上位グループの30艇がゴールドフリート(下位30艇はシルバーフリートで順位決定)のレースにコマを進め、さらに6レースを行った時点での上位10艇が最終日に行われるメダルレースに出場することができ、メダルレースのポイントを加えた総合ポイントで最終順位が決定されるというシステムです。
予選シリーズはどのチームも大きな失敗を避けて慎重にレースを進めます。このあたりのニュアンスはゴルフのプロトーナメントの予選/決勝と同じようなものと考えていいでしょう。予選でのポイントは決勝にも持ち越されますが、上位を狙う各選手が勝負に出るのは決勝シリーズに入ってからなのです。
予選の5レースを終えた時点で最も着順の悪いレースをカットしたポイントで日本チームの順位をみると、岡田/吉岡がトップから5ポイント差の3位、髙山/盛田が32ポイント差の24位、磯崎/関が39ポイント差の28位でゴールドフリートに進出。吉田/木村は第3レースでのリコール(フライイング)が響いてまさかのシルバーフリート落ちという結果となりました。
不振のなかでも収穫はあった
金メダルも狙える好位置につけた岡田/吉岡に比べると、ヤマハの2チームは出遅れたように思えますが、本当の勝負は決勝シリーズに入ってから。当初の目標だったメダルレース進出というハードルも十分に越えられるポジションにつけていました。
ところが決勝初日、ゴールドフリートの日本チームは3艇ともブレーキが掛かったように失速し、順位を落としてしまいます。決勝に入って各チームがギアを上げたのに着いていけなかったのでしょうか? しかし、決勝の2日目になると岡田/吉岡が息を吹き返したように走り始め、磯崎/関も尻上がりに調子を上げ始めました。一方で、髙山/盛田は悪い流れを変えることができず順位をさらに落としてしまいました。
結局、最終日のメダルレースに進めたのは岡田/吉岡1チームだけで、ヤマハの2チームは磯崎/関が16位、髙山/盛田が28位という最終成績に終わりました。
「チームを結成して時間もなかったこともあって、クルーとのコンビネーションがまったくできておらず、スタートやマーク回航などの場面で攻めることができませんでした。ただ、そのあたりは織り込み済みの部分だったので、これから乗り込んで行くことで上げていけると思います。セーリングそのものは、久々のレースだったわりには手応えはありました」(磯崎)
「いつも初日で出遅れることが多かったので、今大会はいい滑り出しができて波に乗れると思ったんですが……。アップウインド(風上へのセーリング)もダウンウインド(風下)もコース選択がことごとく裏目に出てしまったこともありますが、それ以上に力不足な部分も見えてきました。取り組む課題ははっきりしているので、年末の沖縄合宿で克服できるように頑張りたいと思います」(髙山)
両チームともに、チーム結成後初めての世界選手権でした。それぞれ感じるところはあるようですが、同じ目標に向かって競い合うよきライバルとして互いを高め合っていけることに期待します。
(写真:松本和久)