どこにでもあるのに、趣がある係船具 【海の道具】
ボート、ことにヨットには数多くのクリート(係船用装具の一種)がついています。どんなボートにも、少なくともバウ(船首部)とスターン(船尾部)の左右2個ずつは付いているのではないでしょうか。ボート本体ばかりではなく、マリーナのデッキや岸壁にもたくさん見受けられます。
陸上では滑り止めといった意味で使われることが多いようですが、ボートの世界においては、主たる役割が係船に関わるあれこれに絶大なる力を発揮してくれます。
代表的なものとしては鳥居を平べったくした形状で、ロープをたすきがけのようにして留めるものがあります。素材はナイロンなどプラスチック系から金属、石材、木材と多様です。
また、進化系としてはバネの作用とギザギザの歯を組み合わせて、ロープを挟み込むように一方向にのみ固定する「カムクリート」といったようなものなどもあります。
どれも機構が単純なのに、舫い易く、解けにくくする工夫が施されています。揺れる船上で使うのですから、もたもたしてはいられないし、安全を確保するためにも一刻も早く船を固定したい。その一方で、万が一にも外れることはご法度です。にもかかわらず、外し易さも求められるのだから厄介ですよね。
先人の知恵によって磨き上げられ、普遍化されたデザインのものもあれば、最新の技術を駆使してより進化を遂げたものなどもあって、一つ一つを丹念に見ていくと、人間が道具を進化させる過程や、作り手の思い入れなどが垣間見ることができて飽きることがありません。
当たり前のことですが、“クリートのあるところにロープあり”で、クリートはロープを巻きつけるためだけにあると言い切っても過言ではありません。ロープという変幻自在な相方があってこそ、クリートもまた、様々な変化を遂げてきたのでしょう。
航海中の暇つぶしに、じっくりクリートとロープワークに取り組んでみるのも一興です。船酔いしない程度に。