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姫の海賊気質と性根に胸躍らせ、涙する。 【キャビンの棚】

 日本は国土の四方を海に囲まれながら、真の海洋国家として成長できなかったといわれます。その理由として真っ先に指摘されるのが、徳川幕府が200年以上にわたって施した鎖国政策。ポルトガルとスペイン、イギリス、オランダといった当時の列強が、航行能力に優れた船を造り上げ、はるか海の向こうへと次々と出航していった時代、日本は外国との交流さえ断ち切られていたのですから、そう言われるのも仕方のないことです。
 それでも、江戸時代に幕府の許可を得て貿易を行っていた御朱印船、また、北海道から関西にいたる航路を切り開き日本海の各地に活況をもたらした北前船など、日本独自の海洋文化も育まれていました。1600年代当時、船こそが遠距離を移動する際に用いられたただ一つの交通手段であり、独自の舟運文化、造船技術、航海術が発達していったことは想像に難くありません。
 さて、鎖国が実施される以前の戦国時代、瀬戸内海では「村上海賊」がその名を馳せていました。海賊と言えば、日々の生活を補うために海での略奪行為を重ねていく、というのが一般的なイメージですが、村上海賊は、そういった海賊とは少々趣を異にします。現在の愛媛県の能島を拠点に勢力を奮った村上武吉は、各々が略奪行為をしていた海賊衆を秩序ある集団に作り替えたのです。
 瀬戸内海において独自に航行ルールを作り、航行する商船から通行税を取り立て、安全な航海を保証します。また、逆にルールを無視する船に対しては容赦なく攻め立てました。
 こうして組織的に育てられた海のプロフェッショナルたちは、航海術と海戦術に長け、戦国武将にも「水軍」として用いられることになります。
 「村上海賊の娘」は、天正4年(1576年)に起こった「第一次木津川の戦い」を主な舞台として、村上武吉の娘であるきょうを主人公に繰り広げられる戦国時代活劇(もちろんフィクションです)。和田竜のこの小説は2014年の本屋大賞を受賞。そして2015年から2019年にかけて、その小説を原作としたコミックが青年漫画誌に連載され、人気を集めていました。

原作・「村上海賊の娘」(和田竜・著/新潮社・刊)。単行本は上下巻。文庫版は全4巻


 戦国時代の争乱に目が行きがちですが、一方で、日本と船との関わり、その関わりの濃さ、船乗りたちの知識、気質に共感できる物語です。普通はさらりと流してしまいそうな台詞でも、たとえば「海賊は帆を張るとは言わない。帆を上げるというのだ」なんて、海好きなら気になってしかたがない描写もたくさんあります。さらに主人公の景には独特の魅力があります。景に限らず、登場人物がいずれも魅力的で、時代物、戦史物が苦手な人でも、楽しめる物語なのではないでしょうか。

「海賊の娘」(コミック)
著者:和田竜(原作)、吉田史朗(漫画)
出版:Penguin Classics
価格:607円(税込)/全13巻

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