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楽しく大切に資源を育て守る、小川原湖のシジミ漁 【ニッポンの魚獲り】

 以前、青森県津軽半島の十三湖のシジミ漁についてご紹介しましたが、今回は同じ青森県でも太平洋側に位置する小川原湖のシジミ漁のお話です。

 潮の干満によって太平洋の海水が出入りする青森県の小川原湖は、全国でも有数のヤマトシジミの産地です。シジミ漁の出漁時刻となる朝の7時。湖岸に点在する浜には、次々とシジミ漁を営む漁師さんたちが集まり支度を調えていきます。小川原湖の西岸、鶴ヶ崎の浜にやってきた鶴ヶ崎一利かずとしさん、松子さんのご夫婦も〈第2浦太丸〉(W-27HF)に乗り込み、颯爽とこの日の漁場を目指します。

小川原湖は動力(エンジン)を使って湖底を掻く作業は禁止されている

 鶴ヶ崎さんは、18歳の頃からこの仕事を始め、間もなく40年になろうというベテランです。
 「シジミ漁を始めた頃はシジミを獲る者も少なく小川原湖にも35人ぐらいしかいなかった。その頃は好きなだけシジミを獲っていたのだけれど、今では300人ぐらいが湖に出ていて、1日で獲るシジミの量も1人35kgに制限されています」

 小川原湖のシジミ漁は、ほとんどの産地でそうであるように、管理が徹底しています。漁獲量の制限だけでなく、鋤簾じょれん(シジミをとる漁具)のツメの間隔や選別機の網目制限など細かな規制が定められています。ヤマトシジミは海水と淡水が混じり合う汽水域に棲み、繁殖力が強い二枚貝で、北海道から九州に至る全国に生息しています。日本の内水面漁業では、最も漁獲量の多い漁業ですが、それでも茨城県の霞ヶ浦のように、河口堰ができたために汽水とならずにシジミ漁が消滅してしまった湖もあります。

 日本一の水揚げ量を誇る島根県の宍道湖しんじこをはじめ、現在シジミ漁が行われているエリアでは、資源管理に努め、規制を設けながら持続的な漁を行い、賢明にブランドの維持に取り組んでいるのです。

次世代に引き継ぎたい汽水湖の宝

 また小川原湖漁協では、青年部が中心となって、人工種苗の研究への取り組みや、小学校に訪問し、子どもたちにシジミ漁について教えるなど、地元の産業として理解を深めてもらう活動などをしてきました。また地域で行われるイベントに青年部として参加して小川原湖漁協の水産品のPRを行うなど、次世代に、シジミという資源を繋ぐ取り組みを続けているそうです。

 さて、小川原湖では動力を使って湖底を掻く、いわゆる「機械曳き」も禁じられており、船は風や水の流れに動きを任せ、デッキから長い柄の付いた鋤簾を操っていきますが、これがなかなかの重労働。しっかりとコツをつかんでいるベテランの鶴ヶ崎さんですが、冷たい風の流れる湖上にいても、シャツにはうっすらと汗がにじんでいます。

 鋤簾を操作して湖から引き上げると、まずシジミを籠に移し、奥さまの松子さんが藻などの不純物を洗い流し、さらにシジミを選別機に移して商品となる大きさのシジミだけを選別していきます。

シジミサイズを測り、選別していく

湖は楽しい仕事場

 取材したとき、鶴ヶ崎さんの船はまだピカピカでした。「新しい船(W-27HF)は幅があってデッキも広いので作業が楽です。お盆と年末年始以外の平日はほぼ毎日出漁していて、風の強い日もありますが、そんなときでも楽に走ることができるところがいい」と鶴ヶ崎さんは自分の船をとても気に入っているようでした。

 漁場には〈第2浦太丸〉以外にもたくさんの和船が集まり、仕事をしながら船から船へと声がかかり、かけられたりと仲間同士の会話が弾みます。

「こうしてみんなで集まって、法螺ほらを吹きながら楽しく仕事ができるのがシジミ漁のいいところだね」(鶴ヶ崎さん)

漁師仲間がひとつの漁場に集まりシジミ漁を行う

 この日、鶴ヶ崎さんが規定の35kgを獲り終え、浜に戻ったのは午前10時頃。夏の最盛期は35kgを獲り終えるのにそれほど時間はかからず、9時には戻ってくるのだといいます。

 シジミは健康食品ブームもあってその価値が見直されつつあります。鶴ヶ崎さんたちをはじめとする漁師さんたちはしっかりと資源管理を行いながらシジミを獲り、消費者にいつでも美味しいシジミを食べてもらおうと毎日のようにヤマハの和船とともに湖上に出て行きます。



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