渡り鳥たちの生き方に共感したりして。 【キャビンの棚】
昨年の暮れに最終回を迎えたあるテレビドラマのなかで、主人公が水辺の鳥を見て「カモメ」と言ったら、動物が大好きな自閉スペクトラム症を持つ弟が「違います。カモメ科のウミネコです」と言い直すシーンがありました。弟さんのこだわりです。その後でもっと台詞が続くのですが、カモメとウミネコの違いを知るだけで、海が楽しくなることを知っていたので、そのこだわりの大切さ、といったら大袈裟かもしれませんが、とにかくその台詞が印象的で、共感を覚えたのです。
さて、海には様々な鳥が飛んでいます。当たり前ですがカモメだけではないのです。そんな海を飛ぶ鳥たちのことを知りたくなって、ときどきキャビンの棚から引っ張り出してはめくってみるのが本書です。鳥の“渡り”に関するさまざまな生態が書き記されています。
「基本となる飛び方」「飛ぶ速さとその距離」といった具体的なテーマを設け、さらにそのなかでは実際のケーススタディを紹介し、行動の説明が付け加えられています。
キョクアジサシは高度1000kmの上空を対気速度約50km/hの早さでスカンジナビア半島を横断していたり、アシボソハイタカは220kmの航程を6時間かけて飛んだりと、小さな個体からは想像も付かない、鳥たちの能力=渡りの世界が見えてきます。
長距離航海者にとって、渡り鳥は唯一の友だと話を聞いたことがあります。そういえば巨大カジキと孤独な闘いを繰り広げたサンチャゴ(ヘミングウェイ「老人と海」の主人公)も鳥に話しかけていました。
彼らには風を読む力があり、コンパスを持ち、時には漁や狩りをしながら目的地にたどり着く。海を渡る鳥たちは航海者の同志なのです。
渡り鳥の数は年々減っているそうです。環境破壊による飛来地の減少が理由の大部分を占めるそうですが、渡りを続けなくてもよい環境が整いつつあるのも事実だといいます。それはバードサンクチュアリを造ってあげるといった人的な環境保護ではなく、人間社会の出すゴミが彼らの餌となり、その行動を妨げているから。
「(ここは)海じゃないんだけどね」
「海じゃなくてもウミネコはウミネコです。どこを飛ぶかはウミネコの自由です」
こちらは冒頭で触れたドラマの台詞の続きです。
—— 哲学か。
なお、ウミネコはカモメとは異なり、多くが渡りをしない留鳥なのだそうです。