まるで「人生」のような 「錨=アンカー」のお話し 【海の道具】
多くの人は錨(=アンカー)というと、丸い輪っかを頭にして、下部に左右にフックを携えたようなものを想像するようです。でも、アンカーには、用途によって様々な形状のものがあって、ふだん私たちが乗っているボートやヨットの場合、そんな形をしたアンカーを使用するのはかなり希です。
プレジャーボートやヨットでは、「ダンホース型」といわれるものが主流になります。シャベルを平らにして二つに割ったような羽根を根元だけ繋ぎ合わせ、その真ん中に、引っ張るための棒を取り付けています。羽根が海底の砂にざっくりと突き刺さることで、ロープで繋がっている船を固定させる仕組みになっているのです。
海底(砂地)への刺さり具合と羽根の上に乗った砂の重さで固定力が決まるわけですが、一方で、引き上げるときにはうまく砂地から抜けてもらわなくてはならないから、アンカーを打つのには、それなりに技術が必要になるのです。
ところで、海の底からいちど打ったアンカーを引き上げる過程には、まるで一つの人生のようなストーリーがあるのをご存知でしょうか。
アンカーロープを巻き上げる始めのころは、ロープのたるみがあるためするするとたやすく動きます。それは、親に見守られながら揺籠で眠る幼児期のよう。
そのうちすぐにロープはピンと張り、船を引き寄せながら巻き上げていく様は、成長期の苦悩のごとし。
ググッとアンカーが海底から引き剥かれる瞬間は、まるで荒れる反抗期か社会人デビュー時の混乱です。
でも、そこを過ぎるとアンカーは海中をゆらゆらと揺れながら順調に持ち上がり、海面から船に上がるときにちょっとした混乱があるものの、最後はゆっくりとボートのアンカーロッカーという墓に収められる。
ちょっと「こじつけ」が過ぎましたようで……。