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ボートショー歩きづくし 【Clumn- 潮気、のようなもの】

 今年も、まもなくジャパンインターナショナルボートショーが始まる。いわゆる“マリン業界”に若くして足を踏み入れた私は、もう何十年と、以前開催されていた大阪のボートショーを含む、すべてのインターナショナルボートショー(むかしは普通に国際ボートショーという名称だった)に足を運びつづけてきた。もしかしたらこれってすごいことなんじゃないか、と思ったりもしたけれど、同業(ものを書いたり写真を撮ったり)の先輩たちは、それ以上にわたってボートショーに通い続けている。そもそも見て楽しんできただけのこと、すごくも偉くものないのである。お祭り気分ですごしてきただけである。

初めてのアメリカのボートショーに驚愕したこと

 ところで、私がはじめて外国のボートショーを見たのは、これもずいぶんと昔のことでアメリカ合衆国の中北部、広大な湖・ミシガン湖(関東地方の一都六県を合わせた面積よりも余裕で広い)の畔にある大都市で開催されていたシカゴボートショーであった。当時はコンシューマーショーではなかったが、アメリカで最も大きなビジネスショーであったと記憶している。
 どれくらい昔かというと、日本で海外の“コラムニスト”がちょっとしたブームになっていた頃である。当時、アメリカの人気コラムニスト、ボブ・グリーンのファンで単行本を読みあさっていた私は、わざわざ彼が在籍していたシカゴトリビューンの社屋の前まで行き、20ミリのレンズを取り付けた銀塩の一眼レフを片手で持ち、腕をぷるぷるさせながら記念写真を撮った。当時はそんな言葉もなかったと思うが、ようするに「自撮り」である。ああ、懐かしい、恥ずかしい。

 シカゴボートショーでは、とにかくその規模に驚愕したものだ。いくつものホールがあって、すべてを見て回るのにとてつもない時間を要した。そして驚いたのは、ボートはもちろんだが、マリン用品の出展ブースだけでホールひとつがまるごと使われていたことだった。そこでさらに印象に残ったのは、パドルだけ展示しているブースである。パドルとはボートを漕ぐのことである。カヌーや手漕ぎボートといった本体の姿はそこになく、カラフルで形の異なる無数のパドルだけを、これでもかと展示しているブースがあったのだ。考えてみれば、たしかヤマハのブースも船外機だけが並んでいたので、同じ船の推進力であるパドル専門メーカーがあっても不思議なことではなかったのかもしれない。でもやはり、その光景に、アメリカのマリン業界の幅というか、底の深さを覚え、感動しながら日本に帰ってきたのであった。 
 そのほか、外国では中国の青島(チンタオ)、UAEのドバイのボートショーなども見た。どれもお国柄を表すような特徴のあるボートショーで、驚いたり、感心したり、笑ったりもした。と、そんな自慢話をすると「マイアミボートショーは見たことがないのか」と突っ込まれることが多い。悔しい。ない。

ジャパンのボートショーも楽しい!

 見てきた多くの者がマイアミボートショーを「最高だ」という。「楽しい」ともいう。アメリカで最高のボートショーだというからには、世界で最高ということなのかもしれない。まるでラグーンそのものかのような広いマイアミビーチという地の利を活かして会場が分散され、ボートに試乗できる機会もあると人から聞いたりした。なぜ楽しいか。それは海を愛する、または船が好きな人の思いや感情が会場全体にうごめいていて、そのパワーがあまりにも大きく、こちらの内面にまで伝搬するからではないかと想像している。
 私も生きているうちにマイアミでその感覚を味わいたいと願っており、ホームページを通してプレス登録だけはしてあって、毎年、案内だけはもらっている。

 マイアミボートショーや、パリ、ジェノバ、デュッセルドルフといったヨーロッパのメジャーなボートショーと比較しながらジャパンインターナショナルボートショーを論評されると少しつらい。言うまでも無いことだけど、見本市とは、その国の市場規模をそのまま反映する。日本のボートショーにマイアミの規模、お金のかけ方を求めるのは無理がある。それに日本ボートショーだってとても楽しいのだ。

昨年のボートショーパシフィコ横浜会場のヤマハブースの一部。
タイトルに使用した写真は一昨年の横浜ベイサイドマリーナ会場

 近頃はユーザー向けのいろいろなセミナーが開催され、会場(横浜ベイサイドマリーナ)の中をのんびりクルーズできたり、本物の帆船でセーリングできたりと、意外な楽しみ方が増えた。屋内展示のパシフィコ横浜から海上係留展示の横浜ベイサイドマリーナまではバスだけでなく、臨時のクルーズ船が就航する。つまり移動時間すら楽しい。そして、これはボートショーに関係ないけど、横浜からの帰りに野毛や中華街に寄り道して、飲み食いするのも私は楽しみにしている。

出展社の思いがあふれ出すようなブースが好き

 初めてボートショーにやってきた人に感想を聞くと「ボートの大きさに感動した」というのがある。普段水の下に隠れている部分も含めて“まるごと”展示されるボートは、小型ボートとされるものにしたって、確かに圧巻である。キャビンの中などボートの内部を見られるのも嬉しい。

 ヤマハ発動機のブースもここ数年で様変わりした。展示風景の見た目より、中身の部分で。単につくったモノを売る、のではなくて、マリン事業の「姿勢」なるものを訴えようとしている。
 社内の“若手”の有志が、主催者企画のキッズコーナーに出向き、来場してきた子どもたちと何やら楽しいことをしようと目論んでいるとも耳にした。お子さんがいるのなら、ぜひこの若手たちを相手にしてやって欲しい。一緒に遊んでやって欲しい。事業部の「姿勢」とは、この事業に関わる者がどれほど海を愛しているか、フネを愛しているか、それを誇りに思っているかの表れではないかと、外部に身を置く私なんかには、そう見えて、そう思っていて、そう信じている。もしボートショーに訪れる機会があったら、その愛を少しでも感じ取って欲しいと思うのである。
 そして、ボートなんて高価なものを実際に買うかかどうかは別にして、海という際限のない、取り留めのない世界に、また一歩近づいたと、そんな気分を味わってくれさえすれば良いと、得意の上から目線で、願うのである。

 私はというと、今日のこれから、ジム通いの頻度を上げることにする。なぜって、3月に始まるボートショーと、いつか行こうと決めている、マイアミボートショーを元気に歩き通すためだ。

文と写真:田尻鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。


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