セーラー髙山大智の原点 「自分で操船できるのが楽しくて、友だちと走り回ってました」 【We are Sailing!】
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セーラー髙山大智の原点 「自分で操船できるのが楽しくて、友だちと走り回ってました」 【We are Sailing!】

こんんちは。ヤマハセーリングチーム広報担当・Mです。今回はヤマハセーリングチームのヘルムスマン(舵取り/スキッパー)・髙山大智をご紹介します。ヨットとの出会いから、世界を目指すにいたる足跡、さらに髙山のセーラーとしての思いにまで切り込んでいきます。

Sailor's File
髙山大智(23歳)/大分県出身
身長:169cm/体重:65kg

Episode 1:別府湾でセーリングと出会う

 髙山大智がセーリングを始めたのは7歳のとき。2つ上のお兄さんが入っていた「B&G別府海洋クラブ」でOP級(全長2.36mのジュニア用レーシングディンギー)に乗って、地元の別府湾を庭のように遊んでいたといいます。「自分から乗りたいと言ったわけではないんですが、乗ってみたら自分で自由に操船できるのが楽しくて友だちと走り回ってました」 小学校4年生の頃から、全日本OP選手権などのレースに出場するようにはなりましたが「そのときはレースというより、ただみんなで走ってるという感覚」で、人と競い合うという感覚ではなかったようです。

 転機となったのは小学校6年生の時、国際レースの出場権がかかった国内選考レースに初出場したときのこと。「選考会に初めて出られたという自負もあったんだと思いますが、ひょっとしたら自分はヨットがうまいんじゃないかって思い始めたんです。たいした根拠はないんですけど(笑)」 そこから髙山にとってヨットは、単なる遊び道具から、仲間と競い合うためのギアとなり、ヨットレースにのめり込んでいき、全日本OP級選手権でも中1で2位、中2で5位と常に上位に食い込み、全国的にも名前が知られるようになりました。「中2のときに出場したOP級の世界選手権にコーチとして帯同していた鈴木國央さんに、中学を卒業したら国体強化選手として和歌山の高校に進学してみないかと誘われたんです」

 現在ヤマハセーリングチームのコーチを務める鈴木國央さんですが、当時は和歌山県セーリング連盟のコーチとして「2015年紀の国わかやま国体」に向けて和歌山県の強化にあたっていました。「そのときの世界選手権では髙山が日本人で一番いい成績だったのと、自分のセーリングに対するこだわりが一番強い選手でした。あと、世界一になりたいという気持ちが強かったのをおぼえています」(鈴木コーチ)。「単純に好奇心ですね。どうやったらヨットがうまくなるんだという好奇心を満たしてくれる場所なんじゃないかと思って、和歌山行きを決めました。今から考えると、自分にとって大きな分岐点だったと思います」

 地元の大分にもヨットの強豪校があったことから、当初は両親に反対されたようです。「人から『無理だ』と決めつけられるのが本当に嫌いで。『まだ何にもしとらんのに、やってみんとわからんやん』と。僕にはちょっと子供っぽいところがあって、自分は何でもできると思ってるんですよ(笑)。だから、それを頭から否定されると本当に腹が立つ」 顔を真っ赤にして両親と向き合っている中3の髙山少年の姿が思い浮かびます。結局、両親の説得に成功した髙山少年は単身和歌山へと渡り、和歌山県立星林高校に入学し、ヨット部顧問の先生の家を間借りしながら、高校とヨットハーバーを往復する日々が始まりました。

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Episode 2:世界チャンピオンへ、そして初めての挫折

 和歌山セーリングセンターはJSAF(日本セーリング連盟)のナショナルトレーニングセンターに指定されていて、インターハイ種目であるFJ級や420級以外にも様々なクラスのレーシングディンギーが揃っており、恵まれた環境の下で髙山は着実に力を蓄えていきました。そして高校3年生のとき、佐賀県唐津市で開催された420級世界選手権で、日本人初の優勝を成し遂げることになるのです。
 「僕はなんでもできる」と幼児的万能感にも似た、根拠のない自信を抱えたまま、髙山は17歳にして世界の頂点を極めてました。

 ここで少々説明が必要となりますが、競技としてのセーリングの頂点は、オリンピック(アメリカズカップやボルボオーシャンレースなどもありますが、ここではセーラーの純粋な技術を競う頂点という意味で)ですが、ここには男女併せて10クラスの種目があり、セーラーたちはそれぞれの適性に合わせてクラスを選び、10の頂点が存在することになります。それに対してジュニア世代(U19)では、一人乗りのレーザーラジアル級と二人乗りの420級の二種目に集約されているため、420級世界選手権のチャンピオンは、同世代における掛け値無しの世界一といえるタイトルなのです。
 この日本人初の420級チャンピオンという実績も手伝って、髙山のもとには全国のヨット強豪大学からの誘いがかかりましたが、髙山が選んだのは日本大学ヨット部に籍を置きながら、YAMAHA470チームでの活動に軸足を置くという変則スタイルでした。

 「ヤマハでの活動を優先するという条件で日大のヨット部にも籍を置くという形だったので、当初はあまり大学での活動に意味を感じていなかったんですが、ヨット部の同期がいいヤツばかりだったのと、大学の授業もスポーツ科学部だったというのもあって興味深く取り組めたし、何よりも合宿所での集団生活を経験できたことはよかったと思います」

 ヤマハセーリングチームとして世界中を転戦するスケジュールの合間を縫って、日大ヨット部としてインカレにも出場するなど、充実の4年間を過ごした末に、チームとしての最終目標である東京五輪日本代表最終選考レースにまでコマを進めた髙山でしたが、たった一つの日本代表の椅子を勝ち取ることはできませんでした。それは、小さな頃から持ち続けていた万能感が、見事に打ち砕かれた瞬間でした。

 「シリーズを消化していくうちに徐々に追い込まれ、周囲がもうダメだなという空気になったときでも、逆転の可能性がゼロになるまで全くあきらめる気持ちはなかったんですが、もう完全にポイント上逆転できないことが決まった瞬間、その海の上でもう次のことを考えていました」
 レース中は闘志をむき出しにして戦うホットなスタイルが髙山らしさですが、切り替えが驚くほど早いのもまた彼の特徴です。

Episode 3:ヤマハ社員として。そして、新たなるスタート

 大学を卒業した髙山はヤマハ発動機に正式入社、現在はマリン事業本部マーケティング統括部に所属し、練習のない日には横浜ベイサイドマリーナに隣接するオフィスに勤務しています。負けが決まった瞬間から次のことを考えていた髙山は、もう一度ヤマハというチームで世界を目指すことを決めたのです。

 セーリングでオリンピックを目指す選手は、企業のスポンサードによるフルタイムセーラーとして活動するケースが多く、髙山のようにサラリーマン・アスリートとして取り組むスタイルは少数派です。
 「いわゆる“ヨット馬鹿”にはなりたくなかったので、ヨット以外の世界と繋がっていることは、自分にとって貴重な経験です。とはいえ、今は競技に軸足を置いているので毎日出勤することはできなくて、他の社員の方と深い仕事の話題を共有できないのは寂しく感じるところがあります。でも、たまにしか職場に来ない僕を職場の皆さんは仲間として迎えてくれているので、本当に感謝しています」

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Episode 4:髙山大智というセーラー

 ここでは、セーラーとしての髙山大智をアナライズしていくことにします。ヨットレースを舞台にするセーラーは、その戦い方において大きく2つのスタイルに分けられます。一つは、風の変化や相手艇の動きを読み、自分のコース取りで相手を出し抜くことに喜びを感じるタイプ。もう一つは、レース艇の持つポテンシャルを最大限に引き出し、自らのセーリングスキルによって誰よりも「速く」走ることに喜びを感じるタイプ。

 もちろん、世界のトップセーラーと呼ばれるレベルのセーラーとなると、例外なくこの2つの要素を高いレベルでバランスさせていますが、勝利の美学としてどちらに価値を置くかが、そのセーラーの個性を形作っていると考えていいでしょう。
 現在の日本の470級セーラーの中でみると、前者の代表が東京五輪470級男子代表ヘルムスマンの岡田奎樹選手があげられそうです。髙山より2学年上で、髙山と同じB&G別府海洋クラブで育ったセーラーです。

 一方、後者の代表ともいえるのが髙山大智。「僕にとってヨットレースという競技は、ボクシングみたいに相手を打ち負かすスポーツではなくて、誰よりも速く走ることで勝敗を決める競技なんです。夢物語みたいな理想を語るなら、周りのセーラーたちが『470級ってこんなに速く走るの!?』って驚くようなスピードで走って勝ちたい(笑)。これが自分の理想なんです」

 サイズから形状、さらにそのマテリアルまでクラスルールによって厳しく規定されているワンデザインクラスである470級は、どの艇も基本的には同じ性能です。その大前提の下、最高の品質を誇る470級を造り上げるべく、ヤマハ発動機のボートビルダーとしての技術力を最大限に注ぎ込むというのが、このYAMAHA470プロジェクトのコンセプトの一つです。髙山のセーラーとしての美学は、このコンセプトに完全に重なります。

 このプロジェクトに携わる全ての人間が、髙山の「誰よりも速く走りたい」という思いを実現させるべく、2024年に向けて走り始めています。

●Photo by Kazuhisa MATSUMOTO


ヤマハボート


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サイズは?関東では80cm以上のサイズでないとカンパチと呼ばれません。
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