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いかだで太平洋を横断した学者の実話 「コンチキ号漂流記」 【キャビンの棚】

 海の民・ポリネシア人。広い太平洋のハワイ、ニュージーランド、イースター島を結んだ、一辺8,000キロメートルの三角形内にある島々・ポリネシアに生きる人々です。あの巨大エリアに、ぽつぽつと点在する島々に住む人々が、なぜ同じような言語や文化を共有できたのでしょう? それは人類史における、大きな謎の一つです。

 ノルウェーの学者・ハイエルダールは、「ポリネシアの人々は南米から来た」という仮説を立てました。それは、南米の原住民とポリネシア人の双方が、同じ名の英雄・チキを崇拝していたからです。しかも南米の伝説でチキは海に消え、一方のポリネシアでは、チキは海から現れます。また、さつまいもの呼称や巨石文化など、南米とポリネシアは多数の類似点を有していました。

 この仮説を自ら実証するために、ハイエルダールは驚くべきことを計画します。それは、南米の原住民とまったく同じやり方でいかだを複製し、それに乗ってペルーからポリネシアを目指すというものです。彼は、南米の西岸からの海流と、西に吹く貿易風にうまく乗れば、航海も可能と考えました。そこで、戦後間もない1947年に、彼は仲間5人を集め、ペルーから自作したいかだで出航します。この挑戦の貴重な記録こそ、本作「コンチキ号漂流記」です。

 並の神経なら、いかだでの太平洋横断なんてしようとしないはずです。戦後まもない時代のことです。この挑戦には大きなリスクが伴ったに違いありません。
 船の動力は? 波から身をどう守る? SOSは?
 携帯電話やGPSもない時代、ハイエルダールは、周りから愚か者として扱われ、出航時も沈没を大いに期待した野次馬の船に追われました。

 自然だけでなく、人にも邪魔される苦難に満ちた航海……。シリアスになってしまいそうですが、そうならないところがこの漂流記の面白いところです。

「……きょう、いかだについてきたサメと、友だちになった。夕飯の食べ残しを、サメのひらいた口の中に、あけてやったのだ。いかだについてくる、サメはなんだかこわいけれど、気のいい犬のような感じもする…」(本作より)


 こんな漂流だったら、自分もいかだを組んで、旅に出てみたいと思いたくなる、そんな一冊です。どうすればこんなに自分を信じられるのでしょう。貴重な体験記でありながら、勇気や夢を与えてくれる優れた冒険物語です。実際に多くの冒険家が、この本の影響を受けているようです。

「コンチキ号漂流記」
発行:偕成社
著者:ハイエルダール
訳:神宮輝夫
価格:定価800円(税抜き)


ヤマハボート


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