世間の風をかわす道具はないけれど 、フネにはあります。 【海の道具】
「スパンカー」は、元々は帆船の最船尾に張られるセールの一種で、船を風上に向けるときに使用するものです。遊漁船(釣り船)の船尾についているのを見かけたことがあるかもしれなません。「あれ?エンジンが付いている漁船に帆がついているぞ」なんて思ったことはないでしょうか。
風向計(風見)を思い浮かべてください。矢羽根のようなものが付いていて、常に矢印の先が風の吹いてくる方向を指していますね。あの羽根も、いいものは2枚付いていて、後ろに向かって左右に開いた状態で取りつけられています。
船のスパンカーは、まさに同じ原理で作られていて、1本のポールからセイルが2枚取り付けられています(1枚だけの場合もあります)。それを左右にブーム(マストから水平に取り付けられたポール)とロープで引っ張って固定し、後ろに向かって広がるようになっているのです。つまり、船を矢の本体に見立て、スパンカーの羽根で常に風上を向くようにしている、というわけです。
ちなみに、風の方向に船首を向ける事を“風に立てる”なんていう言い方をします。
では、どんなときに船を風に立てるのかというと、流し釣りという漁法で釣りを行うときにその機能を発揮させます。
流し釣りは、釣り糸を垂らし、潮に乗りながら餌やルアーを釣りの絶好ポイントにゆっくりと通過させることで、魚を餌に食いつかせる釣法です。風に立てることで、極力風の抵抗を無くし、風に流される事を避けられれば、潮の流れに忠実に乗せることができる、というわけです。
とはいえ、スパンカーだけで常に風上に船を向けるのは困難です。潮流によって船首もぶれるし、波の影響も受けます。だから常にスロットルワークや舵を切ることで調整しなければなりません。
風は時として心地よさを提供したり、船を運んでもくれる、ありがたい自然現象なのですが、船をコントロールすることに対してはなかなか厄介なものなんです。
誰です?世間の風をかわすスパンカーが欲しいなんていっているのは。
※この記事は過去の「Salty Life」の記事に加筆・修正して掲載しています。