「海は、好きなことだけを考えていられる場所」【社員紹介-私が海を愛する理由】
浜松の中心地から南へ8キロほど。車は広々とした公共駐車場に停めました。夜は未だ明けていません。リヤドアを開け、ルームライトを頼りに釣道具を用意し、ウェーダーとフローティングベストを身につけると、小高い丘(と言っても人工の防潮堤なのですが)をゆっくりと歩いて登り始めます。その天辺に立つと、少し明るくなり始めた空の下に、広大な海が広がっているのが見えました。
耳に届く音は、砂浜に打ち寄せる波の音だけですが、この景色を眺めながら、音楽に傾倒していた彼はジョン・メイヤーの軽快でオシャレな、それでいて奥深い、ギターの音色と歌を波の音に合わせてイメージします。
「晴れた日のこの時間は、東の空がだんだんと明るくなってきて、朝日が海と砂浜を照らし始めます。それはきれいで幻想的です。サーフフィッシング(砂浜で釣り)のなかでも大好きな時間です」
祖父に教えてもらった海と釣りの楽しさ
ヤマハ発動機でブランディングのお仕事をしている滝藤さんは、東京の西部で少年期を過ごしました。海釣りの原体験は紀伊半島の先端・潮岬の麓にある串本(和歌山県)の海です。
「祖父の別荘が串本にあって、夏になると家族で遊びに行っていました。そこで5歳の時のとき、初めて祖父に釣りに連れて行ってもらったんですよ」
それから滝藤さんは釣りに目覚めました。当時の自宅近くを流れる浅川や多摩川で、フナやオイカワを釣って楽しみ、さらにバスフィッシングなど幅広い世界へと広がっていきました。
「生き物とダイレクトにつながって駆け引きできる遊びって、そうは他にないと思うんです。魚がどこにいて、どんな食べ物を欲しているのか、それを考え抜いて。それって簡単なことではないんですが、だからこそ魚が釣れた時の喜びは何にも代えがたいんですよ。それと、釣り糸を垂らしているだけで、他のすべてのことをも忘れさせてくれるほど没頭できるところもいいですね」
と、滝藤さんは釣りとそのために海にいる時間の魅力を語ってくれました。
滝藤さんは、素人が端から見ていただけではわからない、“離岸流”を見つけ、そこを目がけてキャストを続けます。
「ヒラメを狙っていますけど、実はいつも釣果はそれほどじゃないんです。それでも…… 、サーフって見た目にも“本当にここで魚が釣れるの?”というイメージですけど、だからこそ、ルアーを選んで、海中の魚をイメージして、狙った場所へキャストして、そしてヒラメが出たときの喜びはハンパじゃないです。フッキングした(魚を針にかけた)ときはテンション上がります。そのときは、ジョン・メイヤーではなく、メタリカ(アメリカのヘビーメタル・バンド)ですね」
いつか、子どもたちと一緒に海で釣りをしたい
ヤマハ発動機には中途入社。これまで音楽関連の企業、釣り具メーカーに務めてきました。
「仕事でも好きなことに関わっていたいと、子供じみたことを思っていて。務めていた会社ではすごくいい経験をさせてもらいましたし、大きな不満があったということでもありません。でも、子どもが生まれ、自分を見つめなおしていたときに、ヤマハ発動機と縁があって。結果的には、ここでも好きな海と関わることになりましたけど(笑)」
ヤマハ発動機に入社するきっかけとなったお子さんは、今年で3歳になる女の子、そして1歳になったばかりの女の子のおふたりです。
「娘たちと一緒に釣りをするのが夢。とりあえず長女とは4歳ぐらいになったら一緒に行けるんじゃないかと考えていて、いまから少しずつ、巻き込みにかかっています。お風呂の中でフック(針)を外したルアーを浮かべて、“ほら、おさかなだよー”なんてやったりして。そのときがくるのがめちゃくちゃ楽しみなんです」
キャストを続けるうちに、海岸はすっかり明るくなっていました。そして、魚はルアーより小さなマゴチ(メゴチ?)が釣れただけでした。それでも、その魚を楽しそうにフックから取り外す滝藤さんをみていると、海にいた4時間あまりが、かけがえのない時間であったことが伝わってきます。
明るくなった海岸を見渡すと、遠くにもう一人、波に向かってキャストを繰り返している人の姿がありました。そして、波乗りにやってきたサーファーたちもいました。その中の一人は 「きょうですか? これからちょっと波乗りしてから仕事です」と、この日の空の色とはアンバランスとも思える明るい笑顔で、海に向かって走り出しました。中田島砂丘は、季節を問わず、毎日、海の好きな人たちが次々と訪れます。
滝藤さんはというと、この日は在宅勤務。8時を過ぎると、ヒラメへの思いを断ち、後片付けを済ませると、仕事へと向かっていきました。
(題字:滝藤学)