夢や希望の象徴であり、人に再生を促す海。【社員紹介-私が海を愛する理由】
大きな海から波が打ち寄せる広々とした砂浜にひとりの大男がいます。サーフィンや散歩を楽しむ人たちからやや離れたところで、楕円形のボールを手に、少し腰を落とし、砂の中に足の甲を入れるようにして、すり足でゆっくりと移動しています。少し移動しただけなのに、汗が顔に流れ落ちています。彼の名は石塚弘章さん。怪我からの完全復帰を目指したリハビリに励んでいるところでした。
石塚さんは、ヤマハ発動機の社員として、日本最高峰の15人制『ジャパンラグビー リーグワン』の『静岡ブルーレヴズ』(前身はヤマハ発動機ラグビー部=ヤマハ発動機ジュビロ)に所属する現役のラガーマンです。関東大学ラグビー対抗戦グループに加盟する成城大学で副将を務め、Bグループ(2部に相当)ながら在学中に7人制ラグビーの日本代表に選出されるなどの活躍を経て、2016年にヤマハ発動機に入社しました。
石塚さんが、右足の前十字靱帯断裂という大怪我をしたのは2022年の9月に行われた練習試合でのことです。
ファンの皆さん、チームメイトと職場の仲間、そして海に感謝
「前十字靱帯は、断裂すると自然治癒しないので、手術をする以外に治す方法はなかったんです。手術後は腫れがひどくて痛いし、もちろん自力では歩けませんでした。車椅子生活から始まり、その後もしばらくは松葉杖が手放せませんでした。とにかく膝が曲がらない。最初のリハビリはベッドに寝たまま、看護師や理学療法士に手伝ってもらい、ゆっくりと膝を曲げたり伸ばしたりといった動作を繰り返すことから始まりました」
怪我をした直後は、本当に元通り走れるようになるのか、イメージするのが困難なほどのダメージがありましたが、過酷なリハビリを経て「今はほぼ完治と言えるまでに回復」しました。その過酷なリハビリのメニューのひとつが、砂浜トレーニングです。
「チームのトレーナーのアドバイスに従いリハビリをしながら、プロアスリートの怪我の治療やリハビリで実績がある著名な外部のトレーナーにも頼りました。そこで薦められたのが、膝にかかる負担を抑えながら、患部を鍛えていく砂浜トレーミングだったんです。京都にあるクリニックまで通い、大阪にあるビーチバレーのコートでこのトレーニング法を教えてもらい、実践していました。最初はきつかったですが、続けていくうちに、確実に膝が強くなっていく感覚がありました」
磐田では福田の豊浜海岸が砂浜トレーニングの場となりました。広々とした砂浜には遠州灘の碧い波が、心地よい音を立てて打ち寄せています。
「大阪での砂浜トレーニングに一緒にきてくれていたチームメイトがいて、まあ、身体を鍛えるのが好きなやつなんですが(笑)。彼と“福田の砂浜でもやろうや”ってことになりまして、こうして続けてきました。海辺のトレーニングはいいですね。開放的だし、つらいリハビリも気分良く続けられる。気持ちよく終えることができる。こうして回復が見えてきた今は、心配して声をかけてくれたファンの皆さん、職場の同僚たち、トレーニングに付き合ってくれたチームメイト、そして海にも感謝したい気持ちですね」
磐田の自然が好きです
「出身は東京の高円寺です。父親の転勤で何度か引っ越しましたが、基本は東京育ちです。通っていた中学校(成城学園)の校風に自然が好きというのがあって、野外活動でなにかと山や海に出かけていた思い出があります」
ヤマハ発動機に入社し、磐田に住み始めてから、そんな中学時代の野外活動をよく思い出すようです。
「磐田は本当に素晴らしいところで気に入っています。山があって、きれいな川があって、そして広大な海がある。休みの日にはチームの仲間、プロの外国人選手とこの砂浜に集まってバーベキューを楽しんだりしています。最近は釣りも好きになりました。チームメイトとよく出かけています」
砂浜でのリハビリにも、たくさんのチームメイトが付き合ってくれたそうです。石塚さん曰く、そんな彼らも「鍛えるのが好きなやつら」。仲間思いの強い、よくまとまったチーム独特の雰囲気はブルーレヴズならでは。でも、端からは“海”が仲間を呼び寄せているかのようにも見えます。
ボート免許も取得。学ぶことが楽しかった
静岡ブルーレヴズに在籍する選手は、3割ほどのプロ契約の選手の他、約7割はヤマハ発動機の社員で占められています。社員選手はそれぞれ配属された部署での仕事とラグビーのトレーニング・試合を両立させながら生活しています。
石塚さんは今、マリン事業本部DX推進部に配属され、シースタイルの企画・運営の業務を担当しています。一級小型船舶操縦免許も取得しました。免許取得のための学習を通して、広範な船や海の知識を身につけていった期間は「とても楽しかった」と振り返ります。
「仕事でもプライベートでも海に行く機会は増えています。でもボートは今のところ浜名湖の中でたまに走らせる機会があるぐらい」という石塚さんですが、自ら舵を取り、大海原に出て行く日が訪れるのも、そう遠くはなさそうです。
とはいえ、ラグビーファンとしては、まずは再び楕円のボールを抱え、グラウンドを疾走し、ステップを切る石塚さんの姿を見るのが楽しみ、というのが本音かもしれません。
一日も早い完全復活、そして、その後の活躍に期待しましょう。
(題字:石塚弘章)