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忙しそうだね、少し休んでみないか? 「オーパ!」 【キャビンの棚】

 釣り人であり、旅人である写真家がいました。彼が釣り竿ロッドとカメラを抱えて旅に出る際、必ず携えて行く本があって、それが開高健の「オーパ!」でした。持って行くだけでなく、いつかブラジルのアマゾンで世界最大の淡水魚といわれるピラルクーを釣りたいと、この本を枕元に置きながら夜な夜な夢見ているのだ、とも語っていました。後に、彼は夢を実現しました。
 そして、その釣り人にならって、若かった拙子もこの本を手にすることとなりました。

 「オーパ!」とは、驚いたり感嘆したりするときにブラジル人が発する言葉なのだといいます。本の内容は、理屈抜きに面白い。開高健といっしょに驚けます。世界最大の流域・アマゾンに潜む珍魚の数々、人々との出会い、そしてパンタナールで挑んだ最高峰のゲームフィッシュ、ドラード。タイトル通り、その内容は「オーパ!」の連続です。

 そして、筆者である開高健の好奇心、情熱、感性、知識、さらには取材力、筆力に圧倒されるのです。その驚きは、続編の「オーパ、オーパ!」によって、アラスカ、コスタリカ、カナダ、さらにはアジアへと引き継がれ、淡水だけでなく海辺にも広がっていきます。

 1977年の8月から約70日にわたって行われた開高健のブラジル紀行は、翌年から「PLAY BOY」誌に連載され、読者を魅了しました。それから半世紀近くが経つわけです。それでもその魅力は常に新鮮であり、色あせることがありません。読まずとも、パラパラとめくって、写真(撮影:高橋昇)と、そこに添えられた説明文キャプションを読むだけで心が躍ります。

 釣り人の“バイブル”としては、中世にアイザック・ウォルトンによって著された「釣魚大全」が名高く、開高健もこれを愛読していたようですが、日本では、この「オーパ!」そして「オーパ、オーパ!」こそ、釣り人の、さらには旅人のバイブルなのではないかと思えます。
 文庫版は41刷を重ね、開高健の直筆の原稿をコピーした「直筆原稿版」もあります。そして昨年には開高健の生誕90年を記念し、「完全復刻版」として特別編集ブックレット付き、ケース入りの豪華な書籍が発売されました。まさに「バイブル」です。

なにかの事情があって
野外へ出られない人、
海外へ行けない人、
鳥獣虫魚の話の好きな人、
人間や議論に絶望した人、
雨の日の釣り師……
すべて
書斎にいるときの
私に似た人たちのために

「オーパ!」(集英社文庫/開高健)

 拙子の仕事部屋の、雑然と本が並ぶ本棚の中には、赤い背表紙(最新の文庫本は山吹色のようですが)に白抜きで「オーパ!」と地味に印された文庫本があります。仕事に忙殺され、頭をかかえているとき、その小さな本は「少し休んで遊ぼうぜ」「それが無理なら俺を読め」と背中から優しく肩を叩いてくれます。
 世のなか、開高健がしてきたような旅や釣りをするのは難しい、無理だと思う人の方が多いかもしれません。それでも、ポケットにこの文庫本を入れ、またはベッドの枕元に置いて、旅や釣りの夢を見続けることは許されます。
 開高健は、そんな人たちのためにこの紀行文を書いたのですから。

完全復刻版「オーパ!」
発行:集英社
著者:開高健(写真:高橋昇)
価格:定価8,800円(税込み)
※文庫版:1,056円(税込み)
※直筆原稿版:定価3,300円(税込み)


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