未練がましく、チック・コリアで夏にすがる。 【キャビンの棚】
残暑すらなくなりました。秋が深まっていきます。あまりの暑さに悪態をついていた日々が懐かしい。そんな秋を迎え、未練がましく夏の酒、ジンベースの酒でも作り、潮の香りのするジャケットのジャズを選んでしまいます。往生際が悪いですね。
水面をカモメが飛ぶ、爽やかな写真がジャケットを装う「Return to Forever」は、内容も爽やかです。1972年、若きチック・コリアの新しい感性が、それまでのジャズに新たな潮風を吹き込みました。1972年の「スイングジャーナル」誌のディスク大賞で金賞を獲るなどした名盤です。
繊細な優しさ、知的なメロディーライン、アコースティックサウンドとエレクトリックサウンドが解け合って描かれた美しい水彩画のような音楽です。
マイルス・デイビスの時もそうだったと思いますが、アコースティックからエレクトリックへ、コアなジャズからいわゆるフュージョンへと、新しい音に踏み出すとき、ファンは多かれ少なかれ動揺したようです。でも、偉大なミュージシャンはそんな動揺を確実に鎮めてくれるし、結局はますます引きつけることになるのでしょう。そしていつまでも聴き継がれます。
「Return to Forever」も例外ではなく、50年たった今も、その音は色褪せていません。
なお、チック・コリアはこのアルバムにも参加していたベーシストのスタンリー・クラークらと、フュージョンバンドを結成しますが、そのバンド名はそのままアルバムタイトルと同じ「Return to Forever」となっています。