勇壮。果敢。メカジキの突きん棒漁。 【ニッポンの魚獲り】
三陸沖の海。うっすらと雲がかかり、太陽の輪郭を肉眼でもみとめられる、そんな空の下を、一隻の漁船がゆっくりと動き回っていました。船首に高く建つ見張り台が、その船の特徴を表します。見張り台には二人の男が立っていました。何かを探しています。少し靄がかかったような海上は視界があまり良くなく、それでも男たちは目を凝らし、海面を見つめ続けています。
彼らが追い求めているのはメカジキです。スーパーマーケットなどでも切り身で売っています。ソテーなどにして、よく口にする、家庭ではとてもポピュラーな魚です。ところがメカジキの実態はそんな身近なイメージとはほど遠い見た目と習性を持つ魚なのです。
カジキの頭に付く「メ」という文字からは、なんとなく「小さな」カジキを想像してしまうかもしれません。でも、メカジキは漢字で「眼旗魚」と書きます。身体が小ぶりだからなのではなく、目が大きいことからそう呼ばれるようになりました。そしてメカジキは、成魚になると全長は4m、体重300kgを超える、カジキ類の中では最大級の体躯を有します。気性が荒く、時には船を襲うとさえする攻撃的な魚です。その反面、背びれを海面上に出してゆっくりと漂ったり、泳いだりする、どこか悠々としたところのあるのも特徴です。
そのメカジキを銛で突きます。「突きん棒」と呼ばれる漁です。根気、集中力、視力と勘。揺れる船の上から銛を投げ、獲物を仕留める運動神経と器用さ。突きん棒漁に第一に求められるのは、そうした人間の能力です。
船主であり銛の突き手でもある内川登志男さんは毎年のように釜石にやってきていた千葉の船団からその漁法を聞いて突きん棒を学んだそうです。
沖の遙か遠くにメカジキの背びれを発見しました。見張り台からリモコンで船を操り、メカジキを認めた方向へと高速で走らせます。内川さんは銛を手にすると、船の舳先から長く延びたステップの先頭に立ち、カジキを突く準備をします。
「逃げられた!」
そんなことが、この日は何度か繰り返されました。しかし、メカジキはすぐに海に潜ってしまい、銛を突く隙を与えてはくれず、ついに一尾の獲物も獲ることはできませんでした。
メカジキの突きん棒は、まさに勇壮です。実際に300キロを超える巨魚と渡り合うこともあります。
メカジキを見つけ、銛を突く。銛にはロープと一緒にコード(電線)が繋がれており、突いたときに電流を流すことで暴れ狂うカジキを気絶させます。
「手から銛が離れた後も、仕留めたときの手応えのような感覚が手に残るんだよ」と内川さんはその不思議な魅力を語っていました。
この日の様子はいまから10年前、2013年に取材しました。場所は岩手県の釜石市の尾崎白浜。
「家も船もぜんぶ津波に持って行かれちゃったよ」と、内川さんは、努めて明るく振る舞っていましたが、被災後の2年間で新しい船を手に入れ、漁を再開するまでの間には並々ならぬ労苦があったはずです。それでも「やる気さえあれば何でもできる」と漁に取り組んでいました。