世界で最も美しい海の詩かもしれない。 【キャビンの棚】
ジョニー・マンデルは、元々はジャズのトランペット、トロンボーン奏者でしたが、1965年に制作された映画「いそしぎ」(主演はエリザベス・テーラー)の主題歌「THE SHADOW OF YOUR SMILE」の作曲家としての方が有名かもしれません。それでも、そんなマンデルの最大の功労は、ビル・エヴァンスが残した一枚のアルバム「I WILL SAY GOODBYE」の3曲目に収められた「SEASCAPE」を書いたことではないかと勝手に思っています。
人生を歩む上で、人は、なぜか海に何かしらの役割を求めるものですが、この曲を弾きながら、ビル・エヴァンスは何を海に求めていたのだろうかと考えてしまいます。
誰もいない海岸にたたずむ。北から運ばれる冷たい風が、顔に当たる。鉛色の空から時折陽が差すものの、その光は決して暖かくはならず、むしろ、心細さを増幅させるだけです。
けれども、そうした時間の連続の中から、海は人に語りかけるのです。海とはそんな存在なのです。表面的な美しさを越えた神秘性や人の心を包み込むような神々しさ、そんな海の深い存在感を、この曲を海で聞くと得ることができます。
逆に、青い空、真っ白な入道雲、輝く太陽、空飛ぶ鳥、沖を通るヨット、白い航跡を描くボート。こうした明るいイメージの海にもなぜかこの曲はしっくりきます。どんな海の景色も、ビル・エヴァンスの「SEASCAPE」は極上のシーンにしてくれる魔法のような曲です。