肝心なのは獲れた場所ではないのかも。 【船厨- レシピ】
世界三大××、という言葉があります。海や船に関連するものでは、たとえば「世界三大美港」というのがあって、オーストラリアのシドニー港、ブラジルのリオデジャネイロ港、イタリアのナポリ港が有名です。これは、戦前に、ある日本の港湾関係の協会から発行された資料に書かれていたことが拠りどころらしい、といった記述をインターネットの中で見つけましたが、資料そのものを目にすることはできませんでした。
このように、三大××は、根拠が不明な言説の流布が多い気がします。三大美港にしたって、ナポリの代わりに香港のビクトリア港になっている記述をいくらでも目にすることができます。いっそのこと、三大××ではなくて五大××にしておけば、と思ったりもしますが、そうなったらそうなったで、ますます多くの言説が溢れてきそうです。ようするに、言ったモン勝ちみたいなところがあります。
大きめの焼き物皿からはみ出すほど大きな「金華鯖」の干物を目の前に、「世界三大漁場」という言葉を思い出しました。世界三大漁場といえば、多くの人は、ノルウェー沖、グランドバンクス、三陸沖と口に出して言えると思います。ところが、今年発行されたばかりの水産白書(水産庁)には、世界三大漁場について「北西太平洋漁場、北東大西洋漁場及び北西大西洋漁場」とありました。子どもの頃からなんとなく三陸沖と覚えていた漁場は、水産庁基準では「北西太平洋漁場」に含まれるのですね。北はオホーツク海、釧路沖、三陸沖、南は常磐沖にいたる海域です。想像以上に広い。結局は混乱するのです。
金華鯖は、ざっくりいえば、宮城県・牡鹿半島の先端に浮かぶ金華山の沖に根付いたサバのことではあるのですが、漁獲される水域はそれこそ世界三大漁場の一つである、北西太平洋漁場の青森県沖から日立・鹿島沖までと幅広く、その中でも、石巻市場に水揚げされたサバのことを言います。そして、ここが肝心なのですが、品質、漁法、重量、脂質の割合といった、細かな基準を満たしたものだけが認定されるブランド名なのです。
乱暴な言い方をすれば、魚の「ブランド」自体、三大××と同じく言ったモン勝ちといえるかもしれませんが、漁業従事者は自分たちが言い出したブランドに誇りを持ち、そこに妥協はしません。石巻市場に水揚げされたサバのうち「金華鯖」に認定されるのは一割に満たないそうです。「金華山沖のサバ」と「金華鯖」は漁業従事者のプロとしての心意気からして異なるのです。美味いはずです。
趣味で釣ってきたサバも確かに美味いと思うことがあります。それでも、いつも考えるのです。こうした心意気には敵わないと。