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新しいモノに戸惑う楽しさ。 【Column- 潮気、のようなもの】

 念願のマイボートを中古とはいえ手に入れて、そろそろ半年が経つ。これは以前にも書いたことだけど、レンタルボートを利用していたときに比べて、乗る機会はそれほど増えていない。それでも、釣り竿を立てておくことのできるロッドホルダーを新しくつけてみたり、暑かったらすぐにでも海に飛び込めるようにとラダー(ハシゴ)を物入れにしのばせたり、いつか釣るつもりの大きなキハダマグロのためにどでかい保冷バッグまで手に入れた。こうして様々な艤装品や装備品を買い足しているので、乗艇する回数の割に、財布の方は大忙しである。そういえば双眼鏡を買う予定だったことをたったいま思いだした。と、まあ、こんな調子である。
 フネ自体、とても安く手に入れることができたので、ボート遊びは決してお金のかかる遊びではないと言いたいところなのだけど、結局、次々とお金は出ていく。でも、趣味なんていうものは、たいていがそんなモノだ。

 先日、またしても大きな買い物をしてしまった。いや、大きいかどうかはその人の経済力によるので微妙なのだけど、私にとってはかなり大きな買い物である。買ったのは新しい魚群探知機だ。魚群探知機は、手に入れた中古のボートに既に付いていて、それはそれでなかなか良いものだったのだけども、けっこう汚れが目立ち、あからさまに他人様の手垢が付いたシロモノだったのだ。
 この買い物は、フネに名前をつけ、その船名をハル(艇体)に記したときと同じく、楽しかった。さらに以前のオーナーの痕跡を完全に消し去る上で、必要であったと、実際に真新しい魚群探知機を操作しながら、実感したのである。前オーナーのことが嫌いだとか、そういうことではなく、である。

新しいGPS魚探の取り付け工事中。
トランサム(ボートの後部外板)に超音波を発信する振動子を設置しています

 魚群探知機はソナー(Sound Navigation and Ranging=音響航法&測距)の一種である。超音波を海底に発し、その反射を測定してモニターに魚と推測される物体を映し出す。この原理は他にいろいろなもに応用されていると思うのだが、私が初めて魚群探知機の原理を聞いて連想したのは、医療機器として使用されるエコーであった。
 妻が初めて我が子を胎内に宿したときに見せられた、子どもらしき物体が写っている高熱紙のようなモノにプリントアウト(最近の事情は知らない)されていた紙を思い出したのである。なるほど、あれも超音波を使用して作られた画像だったはずだ。

 新しい魚群探知機は想像以上のスグレモノであった。海底に浮遊する物体(魚かどうかは馴れると判別できる。たいていは魚だけど)を映し出し、海底の凹凸を判別し、その厚みから海底が砂や泥なのか、厚い岩盤なのかなどの情報を瞬時に画像化してくれる通常の機能に加えて、フネの真下だけでなく、両サイドの海底の状況も教えてくれたり、独自の釣り用地図を作成できたり。様々な情報を同時に映し出せるよう、マルチ画面をカスタマイズでき、タッチスクリーン方式であるところもこれまで使っていた魚探とは異なる点だ。
 ところが、思っていた以上に、私の脳みそは操作に慣れてくれない。

新しい魚探を見ながら最初に釣れたのはこのアカハタでした

 今までの魚探を操作していると、時折、タッチスクリーンだと勘違いして、間違えてモニターの画面をスワイプたり、タップしてしまうことがあったのに、今度はその逆で、その使い方に戸惑う始末である。
 そのせいだけではないが、豊富な優れた機能を今のところほとんど使いこなせないでいるのである。これは年齢のせい、というわけでもない。若い頃、紙とペンで書いていた原稿をワープロに変えたとき、また、携帯をスマホに買い換えたとき、同じような楽しい戸惑いやちょっとした苦労をしてきた。それに似て、なかなか楽しいし、少しワクワクする性質の戸惑いなのである。
 海の男を気取る者はとかくコンサバティブだと思われがちで、実際にそうであることが多く、また、それを気取るような所があるけれど、その実、新しモノ好きな奴はけっこう多い。
 ワープロやスマホに比べて使用頻度はそれほど多くはないし、釣りをしてお金をもらえるプロのような身分ではないので、少しばかり時間を喰うことになりそうだけど、新しい魚探を使いこなせるようになるまでの時間を楽しもうとしている。

文と写真:田尻鉄男(たじり てつお)
編集・文筆・写真業を営むフリーランス。学生時代に外洋ヨットに出会い、海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海とボートに関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。

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