リオの爽やかな風に骨太のジャズが融合する隠れ名盤 【キャビンの棚】
世の中には、あまりにも実力があったり、有名すぎる主役の影に隠れて、正当な評価が得られにくいという人がいます。本人はそんなことはまったく気にしていないかもしれませんし、それこそが不当な評価なのかもしれませんが、います。いるのです。
サックス奏者、キャノンボール・アダレイもそんなひとりかもしれません。いや、実はこれは、ジャズ初心者、しかもかなり偏ったマイルスファンである拙子の極めて個人的な印象に他ならないのですが……。
キャノンボール・アダレイの代表的なアルバムのひとつに「サムシン・エルス」があります。キャノンボール・アダレイがリーダーとなっているジャズ・アルバムなのですが、実は契約上の関係で、リーダーとは“名義のみ”。「実際にはマイル・デイビスのアルバム」「本当はマイルスの音楽」なんていう形で広く知られている名盤なのです。そして、この一枚のために、なんだかマイルス・デイビスのおまけのような存在になってしまっているのがキャノンボール・アダレイなのです。繰り返しますが拙子の印象です。
彼は他にも「カインド・オブ・ブルー」や「マイル・ストーンズ」などの有名なレコードの録音にマイルス・バンドの一員として参加していますが、成功を収めたのはマイルス一味を離れた後のこと。後に多くのジャズ奏者に影響を与えるほどに“出世”しました。
「CANNONBALL'S BOSSA NOVA」はそんな彼の、実質リーダーのアルバムのヒット作。セルジオ・メンデスが率いるブラジルのボサノバ・バンドによる流れるような美しいリズムに、官能的なキャノンボール・アダレイのサックスの音が重ねられていきます。こう表現するとフュージョンかイージーリスニングのように捉えられてしまうかもしれませんが、根底にはしっかりと“骨太なジャズ”が存在しているのです。それでいてジャズにしては珍しく、海辺で聴きたくなります。
世界三大美港のひとつに数えられる、リオデジャネイロを見下ろす写真を使ったジャケットも印象的です。