船籍の始まりはワイン輸送の独占から 【海の博物誌】
船籍とは船の国籍、いわば戸籍のようなものです。通常、機関を有する船にはすべて、プレジャーボートでも船籍を有しています。
さて、領土問題や資源問題、貿易摩擦など、今も昔も国と国との利害の対立の種は尽きません。先進国同士では対話という外交で解決するのが常ですが、時には残念ながら武力に頼ることもあるのが現実です。
船籍制度が生まれた頃は、全くの武力の時代で、強い国が言い分を通すのが普通のことでした。大航海時代が幕を開けて間もない1485年に即位したイギリスのヘンリー7世は、この国の将来は海上にあると考え、フランスのボルドーから船積みされるワインの輸送はイギリス船に限ることとしました。
その法律では「イギリス船とは、船員の大多数がイギリス人である船をいう」と規定しています。これが航海条例、および船籍制度の始まりです。
ついで1660年にイギリスは、航海条例を植民地に拡大するとともに、船籍の条件を従来の所有主義(所有者が自国人であること)と操縦主義(乗組員が自国民であること)に加えて、建造主義(建造地が自国内であること)としました。これを船籍の三要件といいます。
なお、船舶の大きさを示すトン数は、いくつのワイン樽を船に積むことができるかを基準に生まれた単位です。その昔、樽を手で叩きながら数えるときに発生する「トントン」という音が語源です。
「うちの船は、かなりのトン数になるな」──そんなつぶやきが聞こえてきそうですね。