ここに語られる、“異常な海の冒険”「アーサー・ゴードン・ピムの物語」 【キャビンの棚】
この男がいなければ、文学の歴史は全く違っていた—。世界初のミステリ小説を書き、海洋冒険やSFの開祖の一人であるエドガー・アラン・ポーは、19世紀のアメリカ人作家です。
文芸評論家の鴻巣友季子さんの解説に「現在のあらゆる文学の源泉にポーがいる」とありました。たくさんの文学のジャンルを切り開いたポーは、「海底二万里」のヴェルヌをはじめ、ドストエフスキー、カフカ、オスカーワイルドら、幅広い数多の作家に影響を与えました。あの明智小五郎の江戸川乱歩もエドガー・アラン・ポーを漢字でもじった筆名であることをご存知の人も多いでのはないですか?
ポーの作品といえば短編ばかりですが、その生涯で書いた唯一の長編は、海を舞台にしています。それが、今回紹介する「ナンタケット島のアーサー・ゴードン・ピムの物語」という長いタイトルの作品です。
16歳のアーサー・ゴードン・ピムが、海に憧れを抱いて家出し、親友と捕鯨船に無断で乗船しました。しかし、船内で反乱が起き、船は座礁し、ピムは4人の仲間と漂流することに。その後、イギリスの船に救助されて、大西洋を北から南へ縦断しながら、人食い原住民や幽霊船と遭遇しながら、南極をめざす、というお話です。
海洋冒険だけでなくミステリ、SF的にとジャンルを横断していくストーリーもおもしろい。まさかのエンディングは物語の謎が深まるばかりですが、ポー好き作家が続編を書いています。ヴェルヌの「氷のスフィンクス」もそのひとつ。ポーのアーサー・ゴードン・ピムの謎をヴェルヌが解いていきます。
今後も読みつづけられそうな海の冒険の一冊。部屋の中で海を感じる読書体験をしてみませんか? 表紙に面白みがあったので洋書を取り上げましたが、創元推理文庫の全集なら日本語でも読めます。