イワシに敬意を抱きつつこさえた 「オイルサーディン」 【船厨- レシピ】
鮮魚専門店で、氷水を張ったトレイに並ぶイワシと目が合ってしまいました。その目が「もう、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」と訴えかけてきます。もうすでに息絶えているのに、それでも語りかけてきます。
イワシという魚について考えてみてください。彼らの周りには敵だらけです。カジキにマグロ、カツオやシイラ、スズキにサバやアジ、サメ。彼らより大きな魚食性の魚は、わたしたちが知っているだけでもたいていがイワシを好物としています。魚だけではありません。鯨やイルカをはじめ、アザラシやオットセイといった海獣、さらにはカモメやウミネコ、アジサシなどの鳥類もイワシを食べます。上から下から全周囲から命を狙われているのです。なんて過酷な世界に生きているのでしょう。
とどめは人間様です。世界中の人間がイワシを食べます。シラスと名付けられた稚魚まで食べちゃいます。天日で干されたり、ゆで上げられたり、ときには生で。いや、食べるだけならまだしも、魚釣りの餌にしたり、ときには肥料にしたり、人はイワシの骨の髄まで利用しようとします。こうなると、地球上の生命の源と言っても過言ではないような気がしてきます。人間様よりイワシ様の方が偉いのです。
「おじちゃん、10本ちょうだい」
イワシの悲劇を考えたところで、けっきょく人間は躊躇しません。人間は、蛍光灯の光に妖しげにその魚体をきらめかせるイワシを、涎をごくんと飲み込みつつ買うのです。
イワシに感謝の意と敬意を抱きつつ、オイルサーディンを作ってみました。普通はカタクチイワシを使うのですが、今回は大ぶりなウルメイワシを入手。半分はいわゆる「アンチョビ」にするため、塩漬けにしておきました。アンチョビの方は、出来上がるのはおよそ50日後の予定ですが、あらためてここにご紹介してみようと思います。その頃にはイワシの悲劇のことなどすっかり忘れているにちがいありません。
※この記事は過去の「Salty Life」の記事に加筆・修正して掲載しています。