海屋は「ハンドル」とは呼びません。
ラット。といっても実験用の大型ネズミのことではありません。日本語では「舵輪」と呼びます。そうすると、より“マリンぽく”聞こえます。舵(かじ)を司るわっかだから「舵輪」。
舵輪と字に書いて改めて思うのは、船にまつわる日本語には、船にしか使わないフネ偏がついた漢字がたくさんあるということ。船舶、はもとより、航、舷(げん・ふなべり)、舫(もやい)、艀(はしけ)等々。日本人にとって、船は昔から特別な道具であった事をうかがい知ることができます。
さて、今回のお題「ラット」は、錨に次いで、船をイメージさせるデザインによく使われます。丸の内側に交差する線、そして外側にはとげのような握りがぐるりとついている、あのデザインです。
ボートの場合は、車のハンドルと大差ない直径のものが付いていますが、ヨットなどの帆船には、車よりも倍以上長い直径の物が装備されています。この大きな舵輪をすっくと立って握り締めると、それだけで気分はキャプテン、「ヨーソロー」などと訳もなく叫びたくなってしまうのは筆者だけではないでしょう(と思いたい)。
当然ながら、ラットはキャプテン気分に浸るために無駄に大きくつくられているわけではありません。舵が受ける水の抵抗に負けないように大きくしたり、角を生やしてしっかり握れるようになっています。
それにしても、どうも海の住人、特にヨット乗りは、陸上機器の呼び名をそのまま当てはめることを良しとしない傾向があります。単純に「ハンドル」と呼べば良いものを、と外の人達は苦笑いするかもしれません。
ちなみにとげのような握りがついたものは、わざわざ「キャプテンハンドル」と呼びます。これだからもう、海屋は…。
※この記事は過去の「Salty Life」の記事に加筆・修正して掲載しています。