いつか家族で、ヨットの上から眺める美しい夕陽。 【社員紹介-私が海を愛する理由】
現在、ヤマハ発動機のマリン事業本部に在籍し、シースタイルの企画・運営業務を担当する長谷川彩乃(旧姓・工藤)さんは、まだ学生だった2018年に女子470級のクルー(主に前帆の操作と風や波に合わせ体重移動をこなすポジション)としてヤマハセーリングチームに加入しました。
当時、身長171cm・体重65kgという恵まれた体格と、クルーとしてのセーリングセンス、2016年に開催された全日本470級ヨット選手権大会では女子優勝を果たすなどの活躍(当時・早稲田大学の田中美紗樹選手とのペア)が注目され、2年後に江ノ島(神奈川県)で催される予定だった世界大会(新型コロナの影響で2021年に実施)のセーリング競技・女子470級の日本代表の座をかけ、競技に没頭していました。
恵まれた環境の中でセーリングを続けられたことに感謝
「470級の女子は、みんな『愛さん(吉田愛選手/4大会連続で五輪代表)に追いつけ追い越せ』って言うじゃないですか。でも自分は『クルーの美帆さん(吉田愛さんとペア組んでいたクルーの吉岡美帆選手)に追いつけ追い越せ』なんです。だって、自分たちが日本代表になったときに『宇田川(長谷川さんがペアを組んでいたスキッパー)を倒せ』じゃなくて、『工藤を倒せ』って言われたいじゃないですか」
「得意な風域を聞かれることがありますが、追い風が大好きなんです。スピン(追い風用の帆)を上げると『よし、私の出番だ』って感じで、クルーの腕の見せどころだと思っています」
二人乗りのセーリングディンギーにおいて、どちらかというと“脇役”的な存在に見られがちなクルーというポジションに対する拘り、責任感、そして勝ち気(?)な性格を表す、加入当時の長谷川さんのコメントがチームのホームページに残っていました。
「私、そんなこと言ってたんですか? あ、思い出しました!言ったかもしれない。わあ、恥ずかしい」
セーリングチームに在籍中は、並々ならぬプレッシャーがあったことでしょう。“海が好きか”なんて、それどころではなかったかもしれません。
「でもヤマハセーリングチームに加入したことは、素晴らしい体験でした。学生だったのに、大学ばかりでなく、会社と社員の皆さんに応援してもらいながら、恵まれた環境のなかでヨットを続けてこられたことに、本当に感謝しています。私にとって初めての海外はギリシャのテッサロニキで行われた世界選手権だったんです。その後、ヤマハセーリングチームに加入してから、フランスのイエールやマルセイユ、スペインのマヨルカ島、イタリアのサンレモ、オーストラリアやアメリカなどの遠征を通じて、世界の素晴らしい海に出会い、多くの海外のセーラーと交流することができました。それもセーリングを続けてこられたからです」
放課後にヨットの上で見た美しい海
兵庫県出身の長谷川さんが初めてヨットに乗ったのは、小学生の低学年の頃だったと言います。
「毎年、夏になると全部で60人ぐらいいたと思うんですけど、たくさんの家族のグループで瀬戸内海の小豆島にキャンプに行っていたんです。そこにウインドサーフィンやカヌーなどいろいろな乗り物があって、楽しむことができました。そのときにOP(15歳以下を対象としたインターナショナルクラスのヨット)にはじめて乗ったんですね。その思い出は、ヨットはあちこちからブームが飛んでくる(操船ミスで自然に帆が左右に触れ回る)危険な乗り物、という感じでした。実はカヌーに乗っている方が楽しかったです」
中学時代はソフトボール部。高校に入学し、ヨット部に入部してから本格的にヨットに向き合うこととなりました。
「高校のヨット部って放課後に練習するじゃないですか。日没まで練習するんですけど、夕陽に染まったきれいな海の景色がヨット部時代のいちばんの思い出なんです」
厳しい競技の世界に身を置き、海の怖さを何度となく体験しても、やはり、高校でヨットを始めたときに見て、感動した、美しい海の景色を忘れることはありませんでした。
いつか家族でヨットに乗る日がやってくる
残念ながら、長谷川さんは江ノ島での世界大会への切符獲得には一歩及ばず、目標を達成することはできませんでした。チーム解散後、大学を卒業した後、ヤマハ発動機に入社、そして結婚、出産。長男の京くんはこの4月に2歳になりました。パートナーの長谷川孝さんは、“工藤彩乃”が世界のトップを目指していた時期、他のチームで同じく男子470級のキャンペーンを行っていた同志でもあります。その孝さんは今も、週末にクルーザー(大型ヨット)のレースに参加するなどセーリングを続けています。
「この子には野球でもサッカーでも好きなことをやらせてあげたいですね。ヨットはやりたくなったら始めればいい。私も旦那もちゃんとヨットを始めたのは高校の時からです。ヨットはいつからでも始められるスポーツなんです」
ヨットはいつからでも始められるばかりか、いつまでも続けられる生涯スポーツであり、それが大きな魅力でもあります。いつか、家族みんなでヨットの上から美しい夕陽を眺める日がくるのでしょう。
(題字:長谷川彩乃)