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都会のクルージングは“リアル”なヒップホップで 【キャビンの棚】

 ヒップホップの本場・アメリカでは、西海岸か東海岸でスタイルに大きな違いがあるといいます。ノリのいい西海岸のヒップホップに対し、シャレた雰囲気の東海岸。人によって分ける基準はさまざまなのですが、東海岸に比べて、あのロングビーチのあるL.A.を中心とする西海岸のヒップホップは、海がお似合いの曲が多い気がします。

 さて、アメリカ人達が口を揃えて「これこそが、西海岸ヒップホップの最高傑作」というアルバムが本作「To Pimp A Butterfly」です。この作品から一気にスターダムを駆け上がったカリフォルニア出身のケンドリック・ラマーは、ヒップホップの新王者と目されており、ラッパー風な言い方をするなら、ラップをレペゼンする(represent=代表する)存在。元アメリカ合衆国大統領であるバラク・オバマも本作のファンであり、ケンドリックはホワイトハウスにも招かれたとか。

 そうはいっても、ヒップホップといえば、ギャングや銃などを暴力がテーマの野蛮な音楽と思う人も少なくないでしょう。たしかにカリフォルニアでもっとも危険な町の出身であるケンドリックは、反体制的な内容もラップします。しかし、アメリカの貧民街で生まれたジャズが、いつの日からか音楽の芸術作品と呼ばれ始めたように、40年以上前にストリートで生まれたヒップホップも音楽性に磨きをかけてきたとも言えるはずです。

「To Pimp A Butterfly」
ケンドリック・ラマー
レーベル:‎ Aftermath
参考価格:¥1,200(税込)

 本作にはジャズやソウルなどを代表するアーティストが結集し、リアルなヒップホップらしい暗さのあるラップの裏で、美しい旋律を奏でています。現代のトップジャズキーボードプレーヤーであるロバート・グラスパーやあのジョン・コルトレーンの甥で現代音楽家のフライング・ロータスがプロデューサーの一人として参加していることも、作品の音楽性をさらに高めるのです。そして何より、こうした理屈ではない、音と詞が一体となり流れるようなラップが、ケンドリック・ラマーのヒップホップの大きな魅力だと思います。

 都会のナイトクルージングなど、特別な時間にかける、とっておきの1枚としてどこかに忍ばせてほしい作品です。ぜひ!

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